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追憶の真夜

目指していたものは同じだった。
道程はまったく違っていた。
純粋や不純といった物差しは必要なかった。
『彼ら』に必要だったのは、一振りの剣と鎧。それと幾ばくかの想い。
その身を血で汚し、嘗ては真白だった鎧はいつの間にか、真夜の如き闇色に変わっていた。
故に彼らは『騎士王』と呼ばれ、故に死んでいった。
それを残念に思う者も、心も『彼ら』には存在していなかった。
叶えようとした想いは行き場を失い、突きつける剣の切っ先は折れ、守ろうと した尊いモノは永遠に失われた。
そう、だからこそ、『彼ら』は『器』の中に宿る。
世界の理を捻じ曲げる『器』――――『魔導器』の中に。

―――――――――――――

 千年都市ガウディには様々なヒトや物が流れ込んでくる。それは今も昔も変わらないことだ。
特に中央広場は各地区への分岐点にもなっているため、ヒトの流れが多い。
私のホビットの友人なんかは、一度揉みくちゃにされて死に掛けたという。
まあ、最もグラスランナーとは違ってホビットはどこかどん臭いところがあるから、
ある意味人込みの中に突っ込んでいった彼の無謀さが笑いを誘う所だ。
 話が少しそれたが、今や国としての機能が失われたサーゲオルーグにおいては…
いや、対妖魔戦線の最前線に位置する千年都市ガウディには、様々な人種や物が存在している。
そのお陰で妖魔との戦いにおいても辛うじてだが持ち応えられているのだろう。
 だが、時には良くない物も流れ込んでくることもあるようだ。
 世界には呪われた品々というものが少なくない。その多くがヒトの手に余るものとされ、
然るべき場所に封印されてきている。そうした品々は扱いようによっては確かに対妖魔の
切り札にもなりえるのだろう。問題は、それを上手く扱えるか、に懸かっている。
扱い方一つ間違えば惨劇を生み出しかねないのだ。
 嘗て、そうした事件があった。
 そう『人食い事件』。
 これはエリウス神殿から盗み出されたという『魔導器』に端を発すると言われているが、
死者を甦らせるものであったらしい。確かに『死者蘇生』という字面だけを見れば、
とてもすばらしいことのように見える。だが、私たちは、それが世界の理を捻じ曲げる行為
であることを知っている。
 その『魔導器』で甦ったモノはすでにヒトではなく、人外の化け物。そうとしか言いようが
ないほどの変質を遂げ、ヒトの血肉を喰らうことでしか生命を維持できないヒトの形をした
ヒト以外の何者かになってしまった。
 …惨劇というものは、時が過ぎれば悲劇に様変わりする。かの『魔導器』を盗み出した者の
願いが真摯なものであったとしても、そこから生み出されるモノが必ずしも純粋なものであるとは
限らない。そのことは、『人食い事件』で痛感していたし、教訓として活かさなければなかった。
 しかし、過ちは幾度となく繰り返される。繰り返されてはならないことがまた起こってしまった。
 星輝の月、ガウディでは意識不明者が続出するという事件が起こった。如何に積もるほどの
大雪が降ることが少ないというガウディにおいても、この月の夜の冷え込みは相当な物だ。
凍死体で発見される前に自警団に保護されたというのは不幸中の幸いという他ない。
 この意識不明者というのは、その殆どが冒険者や傭兵といった類の連中ばかりで、
事件当初は酒場帰りに酔いつぶれて寝込んでしまったのではないという意見が大半だった。
しかし、翌日も目を覚ます気配がなく、意識を失い倒れていたと いう者たちが尋常ではない
数になって、ようやく自警団も事が非常事態だと気が付いたのだろう。
 深夜の見回りの自警団員の数を増やし、警邏のサイクルも増やしたのだ。しかし、それでも、
意識を失ってしまう事の原因を突き止められなかった。このことですでに、自警団は致命的な
遅れを取っていた。
 事件から三日後、目を覚ました意識不明者からの証言により、黒衣の二人連れに襲われた
という事実が発覚する。それも、何か魔法の品のような石版を突きつけられて、
そこで意識を失ったというのである。
 ここまで書けば、大体の読者はご存知なのかもしれない。
 意識不明者が続出するという、この事件…そう、同月、深夜、中央広場で一夜の内のみ
繰り広げられたという闘争劇。以前、記録ギルドにも、これに関する記事が掲載されたことがあった。
詳しいことは、あちらの方で見ると良いだろう。ここでは割合させていただく。
 『魔導器』。やはり、今回の件も関係があったそうだ。『魔導器』の名は『ナイトオブナイツ』。
千の軍勢を生み出す『魔導器』であるといわれている。千の軍勢というのは、今のガウディを
考えれば魅力的な戦力に違いないのではないだろうか。
 確かに千年都市ガウディにはアンガルスクⅡ世の元、『蒼の竜騎士団』『白の近衛騎士団』という
二大戦力を有しているが、それでも戦力不足の感は否めない。第三次外周区攻防戦においても
そうであったように、今のガウディにとっては 『冒険者』や『傭兵』といった者達は貴重な戦力なのだ。
しかし、それでも足りないと思ってしまうのは私だけではないはずだ。
 そこに千の軍勢を生み出す物があるとすればどうだろうか?少々の代償を払ってでも得たいと
思ってしまうのではないだろうか?そのことで汚名を負おうとも致し方なし、と考える者がいてもおかしくはない。
 …そして、現に犠牲によって千の軍勢は呼び出された。だが、結果は喚び出した者の意にそぐわなかった。
喚び出されたモノは言ったという。

 『一種だけ制約を違えたな…?』と。そう言ったのだという。制約というのが何を指すのかわからない。
それがとても困難な条件であることだけは容易に想像できよう。

 ヒトの手に余るものは、常にヒトに害を成すモノへと変貌する。いや、最初からそうであったのかもしれない。
喚び出されたモノ、名を『ナイトオブナイツ』 と名乗り、その手にした得物を『黄昏のナグルファル』と呼んだそうだ。
 その黒い鎧に包まれた軍勢を持って中央広場から侵攻しようとしたのを止めたのは先ほども記した
『蒼の竜騎士団』と『自警団』…そして、エリウス神殿の虎の子とも呼ばれる『神殿騎士団』。
彼らは有事の際にのみエリウス神殿の命によって動くことが多いそうだが、今まで主な戦場に姿を現した
ことがない。故に虎の子と呼ばれているのだが、ここに来て彼らが姿を現したことに微かな違和感を覚えずには
居られなかった。
 推測で物を書くものではないので、下手なことは書かずに置こう。最後になったが、『冒険者』の面々も、
この戦場に馳せ参じたという。
 その面々は中々に豪華な物だったという。『咎人の剣士』『血化粧の死神』『黒狼狩り』『不屈の蒼』…
一つでも聞いた二つ名があるのではないだろうか?彼 らもまた、この争いを止めるために戦列へと
加わったのだと言う。
 程なくして、彼らは、千の軍勢を生み出した『ナイトオブナイツ』を退け、事件を終息へと導いた。
私は、そのことに対して惜しみない賛辞を送りたいと思う。一夜のうちに、この争いを止めた功績は
大きいように思えたからだ。
 もしも、この事件が長引くようであれば、『宵闇』のようにガウディの外壁内での争いは妖魔たちへと
付け入る隙を与えるだけに留まらず、街中の混乱を多く引き起こすことになっただろう。そのことを考えれば、
普段、『冒険者』という言葉の裏に『ならず者』と張りつけて口にすることも憚られるのではないだろうか。
 少なくとも私は、彼らのことをガウディの希望だと思っている。
 いや、ただ単に、そう思わなければやってられないという話なのだが。

―――――――――――――

「相変わらずあなたの文章は紙面に載らずに没になるばかりなのですね。あなたは給料泥棒ですか」
と、私の目の前のイスに座って茶なんかをしばいている友人は言う。子供ような外見をしているが、
れっきとした成人だ。言うまでもなく、記事の最初に笑い話として出したホビットの友人なのだが、
私の記事の草稿を見るなり、これだ。
「うるさいな。お前みたいに親の資産を食い潰すのが仕事じゃないだけ、まともだろう。つか、ほっとけ!」
「食いつぶしているのではありませんよ。有効活用しているのです。そこを勘違いしているから、
あなたはいつまでたっても中堅にもなれない年功序列でしか、昇進できないギルド職員なんですよ。
まったく、彼女に同情しますね」
「おまっ、それを言うか!よーし、表に出ろ。身長伸ばしてやんよ。主にたんこぶでッ!!」
「ああ、結構です。それなりに私はこの体が気に入っているので。それにしても…『ナイトオブナイツ』…
『騎士王』ですか。洒落た名前を昔のヒトは付けるもんですね」
「…うん、ああ、それな。今一最初はピンと来なかったんだが、話を聞いて回っているうちになるほどな、
と思うようになったよ。『ナイトオブナイツ』と名乗った個体を見たやつの話じゃ、そんな名前が本当に
しっくり来るほどの風貌だったそうだ」
 そこで、私は彼の口にから零れた『騎士王』という言葉に一つ思いを馳せる。
 確かに『ナイトオブナイツ』は、ガウディに災厄をもたらしたのかもしれない。しかし、別の見方をすれば
今のガウディの現状に警鐘を鳴らしたのかもしれない。
 ガウディは徐々に戦力を強化しつつある。だが、それは傭兵や冒険者といった類の者達の力によってだ。
個々としての能力は高いのだろう。それは『戦鬼』や『咎人の剣士』、『血化粧の死神』といった面々を
見ていればわかる。武力では優れているが、戦争となった時に指揮を飛ばす指揮官としての才能を
持ったものが圧倒的に少ないように思える。『覇王』シュタットや『戦鬼』ジョンといった武力、指揮共々
優れた人材が育っていないのだ。
 そこに私は少しばかり危機感をおぼえる。対して妖魔側はどうだ。ダークエルフといった知略も備えた種族が
多く存在している。この間も威力偵察を行なった隊がダークエルフによる奇襲によって壊滅させられたと聞く。
「…『騎士王』とまではいかなくても『将』たる器が必要になってくる時代なのかもしれません…」
 私の思いを知ってか知らずか、友人が呟く。
 …果たして、今のガウディに『将』と呼ぶに相応しい者が何人いるのだろうか。また『将』に成り得る『次代』を
私たちは守れるのだろうか。
 心中は冬空の暗澹とした曇空のように鬱屈とした気分で一杯だった…

文章:ラサPLサニロ


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