今回は、繁華街のとある店での夕食をかねた会談となった。
「おばちゃん」という言葉がしっくりと当てはまる店主の出す食事は、
母親の食事を思い出させる懐かしい感じの家庭料理だったのだが、
食事を運ぶウェイトレスの衣装がそれなりにきわどく可愛らしいのは
繁華街ならではの需要なのだろう。
私も男なので視線がつい横にそれそうになりつつ、
彼の語る物語を書き留める為、愛用のカバンからペンと紙を用意して
彼の話に耳を傾けた。
ことの起こりは天聖暦1043年 星輝の月
酒場で暇を潰していた彼は、若手の傭兵と共に酒場の主人の紹介で
冒険者長屋の幽霊騒動を解決するため、ガウディを迷走する事となる。
多くの冒険者が居を構える冒険者長屋の1室。
部屋の主はランバートと呼ばれる吟遊詩人。本人は仕事のために長らく
部屋を留守にしていたはずにも関わらず毎夜聞こえて来る竪琴の音と物が動く音。
不審に思った大家が合鍵で部屋を覗いても誰の姿も無く…と
怪談じみた話を相談された3つ目の巨人亭の店主は、暇そうな二人の戦士に
声をかけ、解決を依頼した。
依頼を受けたのはジムと呼ばれる駆け出し戦士と、目の前の彼。
彼らは、その家を訪れ大家の許可の元、部屋を家捜し居る事にした。
部屋の中はベッドにタンス、テーブルに椅子と特に目立ったものが無く。
問題の竪琴はテーブルの上に置かれており、タンスの中からは
古い時代の銅貨と地図、そして彼の手記が見つかり早速、手記の内容を遡って
読んでいく事に。その内容では
『彼には結婚間近のミリィと呼ばれる彼女が居た事』と、
『仲間と共にシーポート周辺の遺跡へ旅立つ準備をしていた事』
『彼女へ送る指輪を広場のとある木の根元に埋めた事』
『この仕事が終わったら彼女に結婚を申し込む事』と様々な情報を得たが、
手記の最後が旅立ちで終わっており、それから数日後に幽霊騒動が
始まったことを知った事の他は、直接幽霊騒動に繋がる手がかりは
得られぬまま夜となり…彼らがシーポートへ行 く事も考え始めた頃、
誰が居るわけでもなく鳴り響く竪琴、カタカタと揺れる椅子。
驚いて一旦部屋から遁走しようとする二人だが、別に危害を加えようともする様子も
無いことから、その幽霊?に語りかけてみる事にする。
何度かの言葉をかけて見たが、鳴り響くのは竪琴ばかり…「彼が喋れないのでは?」
との予測より、様々なコミュニケーション手段を模索する事となる。
「『はい』なら♪ド、『いいえ』なら♪ラで答えてくれ」
音の聞き訳が素人には難しく挫折。
「『はい』なら椅子を1回、『いいえ』なら椅子を2回鳴ガタガタらしてくれ」
… まどろっこしくて挫折。
そもそも『はい』『いいえ』のみで聞き出せた内容は、
幽霊の正体が「ランバート本人」である事、遺跡で死んでしまった事、喋れない事、
部屋から出られない事の4つ。
物は動かせるが、喋れない、見えない、部屋から出られない…と
なんとも中途半端な幽霊との対話に困惑する事しばし…筆談と言う手段に
たどり着いたそうだ。
ランバートがミリィとの決別を希望する事を知った彼は、ミリィをつれて来る為
彼女の職場に駆けつける事となる。その職場がこの店らしい。
露出度の高い女性に余所見をしつつ、ミリィの居る店へ二人が駆けつけた時、
ミリィと呼ばれるウェイトレスがチンピラにしつこく絡まれていた。
チンピラを無視してミリィに声をかける二人に、チンピラもナイフを抜き威嚇。
元々娼婦だったミリィの稼ぎに目をつけたチンピラが、彼女に惚れたランバートの
支援で自由となった彼女を、ランバート不在の話を聞き連れ戻しに来た…と言う
チンピラ達の言い分にキレる二人…繁華街の一角で始まった大喧嘩は、
チンピラの用心棒も途中で増援として駆けつけるが、攻撃をあっさりと回避され
壁を殴り手首を傷め自爆する滑稽な姿を観衆にさらした挙句、
チンピラ達を快く思っていなかった繁華街の住人の声援の中、戦士達の勝ちで
終わる事ととなる。周囲の歓声の中、自警団の来訪を告げる声にミリィと彼らは路地裏へ
と観客達の誘導で逃げ込み事情を説明、ランバートをジムに憑依させ、
ミリィと無事邂逅させる事となる。
このあと、クーガは、彼はしばし部屋に二人きりにさせその間に大家に事情を説明。
後に大家とクーガ、そして憑依されたジムとミリィが見守る中、
自らの『鎮魂歌』で天に昇るランバートを見送る事となる。
後日談となるが、手記あった『指輪』を広場から探し出しミリィへ手渡す事になるが、
其の時にミリィのお腹にランバートの子供がいる事を告げられ、彼女が田舎に帰る事を
告げられる。またランバートの部屋を掃除して出てきた遺跡の地図と古い時代銅貨は
報酬に追加としてミリィの手で彼らに送られたそうだ。
「新しい命と吟遊詩人の愛した女性の新たな人生に!!」
この日の夜。3つ目の巨人亭ではクーガ達によって酒が振舞われたらしい。
「随分と心温まる話ですね、物凄く似合いません。」
「ほっとけ」
食後の一杯を傾けつつ、彼との雑談を楽しみ思う。
ミリィと言う女性が、恋人の死に直面しつつも心が折れなかったのは
彼女が既に『母親』であったからかもしれない。と
記事:コクマ=ビナー