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情報と進軍

これまでガウディやリオンといった解放都市同盟が常に死都サーゲオルーグに対し進軍できずにいた大きな理由の一つに、死都内の情報が余りにも手に入らなかったという揺るがすことの出来ない、まさに歴然たる事実とそれによってもたらされている現状がある。
鳥人を使った偵察により情報を得ようと空を駆ければ、間違いなく軍略によるものと考えるほかにないほどに適切に配置された翼を持つ妖魔たちによって阻まれ続けていた。
結局、1043年の天静の月の大脱走以来、死都を抜けて情報をもたらす存在が公式には存在していないというほかにない状況だった。
あの手この手を用いて死都の情報を得ようとはしても、現状の戦力を分析した時に常に侵攻を仕掛けてくる側が妖魔軍であり、防衛戦を繰り返してきていたガウディには情報収集を仕掛けるための時間を与えてもらうことはできず、結果、正体不明難攻不落の妖しい都市である「妖都サーゲオルーグ」を誕生させてしまった。
何よりも、常に防戦の中にあったガウディにとっては、「妖都」への斥候の派遣そのものをためらわずにはいられない理由があった。
如何に情報が必要であったとしても、そこに犠牲が伴った場合に……得られる情報と支払い代償を天秤にかけられるほど、現状のガウディに力が無いといわざるを得なかったのかもしれない。
そう、「妖都」の存在はこの時代に不可欠な貴重な人材を浪費することを是とするわけにはいかない解放都市同盟を萎縮させ、結果として喉から手が出るほどに欲しいサーゲオルーグにおける妖魔軍の数やフィンディアやラングレイのように奴隷としての日々を余儀なくされているだろう同胞についての情報が、月日の経過とともに正確さを失い続けていた。
それが……打破された。
まるで卵の殻に亀裂を入れた程度なのかもしれないが、オフィスコから届けられた僅かなその情報をガウディ評議会は進軍を前に公表に踏み切った。
「サーゲオルーグにいる同胞は、何かしらの拘束により街の外へと出られなくなっている。これはサーゲオルーグ侵攻に先立ち、情報を得んとした者の手によって持ち帰られた僅かな情報である。だが、この情報により、これまでどうして死都サーゲオルーグから逃れてくる者がいなかったのかについての説明がつく。残念ながら「何かしらの拘束」がどのようなものなのかについては未だ解明されておらず、それを解明することが今後サーゲオルーグを奪還する上で必要不可欠な条件となった……越えるべき障害の存在は悪い報のように思えるかもしれないが、越えるべき障害が存在が確認されたならば、それを超えればよい。知らずに手を尽くせないのと、知ることによってあらん限りの知恵を絞り、対策をたてられるということは天と地ほどの差があることからも、この報は吉報と言えよう」
強がりと鼻で笑ってしまうこともできるほどの声明でありながら、そこには大きな希望があった。
それは、死都においてすでに命を失っていたかもしれないと思われる同胞たちが生きている可能性が非常に高くなったという現実だ。囚われていたとしても、障害さえ越えることが出来ればともに武器を手にとって戦うことも可能かもしれないのだから。
なにより、サーゲオルーグに家族を持つ者たちにとって、これは生存の可能性を秘めた朗報といえたのではないだろうか。

今、ガウディの士気は向上している。そして、それは蒼の騎士団の者たちも同じだったのではないだろうか。
サーゲオルーグに家族残す者たちはこぞって騎士団の詰め所に訪れ願いを伝え、そして願いを託している。その願いを持って蒼の騎士団の中でも精鋭だけで選抜された者たちはガウディを出立した。
陽光を煌びやかに弾き返す美しい甲冑を身に纏い……彼らはまさしく希望の光そのものであった。

これまで耐えることだけを求められ。
これまで諦めることだけを求められ。
それでも希望を失わずに日々を暮らし。
それでも光明を求めて日々を暮らし。
ようやく手にしたこの機会に……多くの期待を持つことは罪ではない。過大な期待を持つなという方が残酷だろう。
アンガルスク二世の旗の下で、過剰なほどの期待が膨らんでいることを危惧しないわけではない。
だが、期待せずにはいられないのは、このガウディに住む全ての人にとってどうしようもできないことだろう……それほどまでに、抑圧され続けてきたのだから。

「初めての攻勢か」
出立した騎士団の姿を思い返しながら私は拳を握り締めていた。
「人の口に戸は立てられている。ゆえに、人々は騎士団を鼓舞する。騎士団に声を送る……希望を託す」
この進軍の意味を知る者たちの想いをどうか叶えて欲しいと私は願わずにはいられない。できることなら可能な限り少ない犠牲の上に全てが良い方向へと向かって欲しいと思う。
けれど、その可能な限り少ない犠牲はすでに発生し、発生したからこそ新しい情報が届けられたのだということに、私は死せる勇者に黙祷を捧げた。
生きて帰ることが勝利ではないと知りながら、生きて帰ったとしても敗北かもしれないと知りながら……それでも生きて帰ることを願ってしまう。
「まだ、はじまったばかりだ。この一戦で全てが終わるなどと甘い考えは持たない。だから、勝利とともに生きて帰ってきてくれ」
あの野営地にいた者たちの顔を思い返しながら、私は誰一人その名を忘れまいと心に誓っていた。

記事:ウェイト=オン=サンク


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