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サーゲオルーグ侵攻

ガウディ評議会は本日声明を発表した。
「死都サーゲオルーグへ、蒼の騎士団により侵攻を行う。この侵攻はサーゲオルーグ奪還のためではなく、妖魔王国に対しての牽制であり、我々人類種が座して妖魔種の侵攻を待つのではないという意思を示すためのものである。この侵攻は傭兵都市リオンとの共同戦線であり、獣種の異変により混乱の度合いが高まっているサーゲオルーグにおける妖魔軍の現在の兵力や統率力をはかるための作戦である」
アンガルスクⅡ世の宣言に、居並ぶ評議会の議員たちも力強く頷き、そして蒼の騎士団の団員たちは高くその手に持った武器を掲げたという。
実際、妖魔軍の侵攻は昨年の神滅の月を過ぎて以降パタリとその動きを止めており、獣種の力に頼っている部分が非常に大きかったとはいえ、こうまで静かなのは不気味と思えなくも無かった。
さらに、先月末のヴィクトル嬢の捕縛というチェスターの声明に多くの者たちが怒りを覚えており……特にかつてのヴィルヘルム卿という軍部の絶対的カリスマの存在を覚えている蒼の騎士団の騎士たちの中に激しい怒りをもたらしていた。
それらの溜まりに溜まった怒りの捌け口が今回の侵攻に繋がったと思えなくもなかったが、それにしてはあまりにも急過ぎる侵攻の発表にサーゲオルーグに親類などがいる貴族たちの間からは微かとは言え不満の声が漏れているのも事実だ。
実際、死都サーゲオルーグにおいてチェスターの存在は人類種の貴族たちにとっての象徴でもあり、現在も貴族としての特権は守られているという。
あの王都陥落の日からもサーゲオルーグの貴族はその特権を剥奪されることは無く、日々を変わらずに過ごしているといわれている。それに対し、一般市民などは奴隷とされ、一部の鍛冶などの技術を持つ者たちには一定の自由などが与えられているという。
フィンディアのように徹底した弾圧による力による支配だけではなく、チェスターがいることにより一定とはいえ理性による統治も行われているというのは奇妙な話だと思わざるを得ない。

だが、それでも奪取できることならばサーゲオルーグを奪取したいと思うのは、あの場所が戦略上の要所であり、あそこを奪取しない限りバーネッツやラングレイという都市を解放することが非常に難しくなることを誰しもが知っているからではないだろうか。
実際に、サーゲオルーグが落ちた時から北方も西方も……そしてこのガウディを含めた南方も常に妖魔軍の侵攻の脅威にさらされ続けており、それがどれだけの精神的な圧迫としてこの街に影響を与えているかを想像することは難しくないだろう。同時に、蒼の騎士団や自警団などが外周区を含めた見回りにどれだけの人材をまわしているかを考えれば、その影響は精神的なものだけではすんでいない。
ガウディ評議会は今回の件はサーゲオルーグ攻略のための軍の派遣ではないと言っているが、サーゲオルーグ攻略がどれだけ望まれているか、また、ガウディの平和のためにも攻略を誰よりも望んでいるのはガウディ評議会の者たちなのではないだろうか。

「…………」
筆をおきながら、私は何もいえずにいた。緑薫の月の風は開けた窓から流れ込んできて、その暖かさに私は心地よさと、春先の冷たさの両方を感じずに入られなかった。
「私は筆を折り、この街を離れ……二度と筆をとることはないだろう……か」
それはきっと一つの未来であり、可能性であり、決まったことではないと知りつつ、その可能性に何もいえなくなった自分がいた。
「……ヴォンジアに渡り、家族と余生を静かに過ごすのも良いのではありませんか。少なくとも、その時を迎えたとしてもヴォンジアまで妖魔軍が到達するのはまだ数年の余地はあるでしょうしね」
そのように告げる彼の言葉に、けれど私は何も返すことはできなかった。私とともに彼はあの老婆の予言を聞いている。彼に与えられた予言は私とは比べ物にならないくらいに絶望的で……いや、絶望的であったとしても、昨日の野営地であのジョン=クラウンは言ったという。
「1%でも可能性があるならば」……と。それだけの強さを私も持ちたいと思う。だが、それは過酷な道だと、過酷な道であるからこそ憧れるのだと、私は窓からの穏やかな風に涙がこぼれそうになるのをこらえていた。

記事:ウェイト=オン=サンク


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