黒い獣を伴った少女は、巨大な扉を背にして、広い空間をその紅い瞳に写していた。
高い所につけられた窓から、月光が眩く差し込み、その空間を淡く照らしている。
『…では主、行ってまいります』
獣は静かな声で脇に佇む少女に告げた。
少女は獣に向き直り、その首に両手を回すと、耳元で紅唇を動かして命じる。
「…必ず還ってくるのよ」
『仰せのままに、我が主よ』
獣は少女が腕を解くと身を転じて、奥にうっすらと見える階段に向かって歩き始めた。
少女はその姿が闇に溶ける様に消えたのを見届けると、自らも身を転じて歩き始める。
幾つかの階段、幾つかの廊下を抜け、少女はひとつの扉の前で立ち止まった。
自然と鍵の部分は金属的な音を響かせ、扉は軋んだ音を立てて両側に開いていく。
―そこは、応接室の様だった。
部屋の中央に向かい合うように古い時代の刺繍が施されたソファが並べられており、
壁には幾つかの調度品があり、湖に向けて付けられた大窓からは月光が蒼く差しこんでいた。
「…卿か?私を呼んでいたのは」
ソファの前まで歩き、視線を転じた先に備えられた一揃いの甲冑に向けて、少女は言った。
そこに居る何者かが彼女だけに声を発しており、そして少女はそれに応えているに違いなかった。
「…成る程。早々にも、この城は蹂躙されるだろう…その前に、」
「…存分に語るがいい、気高き騎士の魂よ。夜は永い…」
少女は闇色のマントを翻すと、甲冑に向かい合う様に、ソファに静かに腰を下ろした。
窓の外では、湖が月光を照らして蒼く静かに揺れている。
その周囲に点々と灯る人工的な赤い炎は、城を攻め落とさんとする兵のものにも似ていた…
天聖暦1047年 天静の月 商店街
商店街では、遺跡調査の準備に勤しむ冒険者の姿があった。
ナーク:「すみませーん。えっと・・・。防寒具一つと、保存食3つ、陶器の小瓶3つ、
小袋3つに水袋一つください〜」
(店主に向かうと必要な道具を伝えて代金をカウンターに置く)
店主:「はい、これね。まいど」
(物品をつつんで手渡す)
ナーク:「ありがとねー。今から久しぶりの冒険だぁ!!」
(買った道具を袋の中にしまうと元気よく外に出る)
店主:「お、気をつけて行ってきなよ」
(見送る)
天聖暦1047年 天静の月 魔術学院
出発前日、ブラムは魔術学院に向かっていた。
ブラム:「ハインツさんに伝えておかなきゃ!」
(夕飯の為に作りこんだサンドイッチの紙包みを持参し魔術学院へ向かう)
学院の中に入ると、先日の受付がおり、ブラムに挨拶の声をかけてくる。
ブラム:「こんにちわ、ブラムですっ!ハインツ=シェルゼンさんって人に、遺跡のことで
伝えたい事があるんですけど、伝言とオミヤゲ渡してもらってもいいですかっ?」
(受付へ行き、ハインツがいるかどうかを尋ねる)
受付:「はい、ハインツ=シェルゼンにですね。承りますよ」
ブラム:「えっと…出発は明日15日の明け方になったので、日が昇り始めたくらいに
学院の前まで迎えに来る…って伝えてください!」
(紙に包まれたサンドイッチと伝言を預け、その場を立ち去る)
受付:「では、その様に伝えておきますね」
(紙包みを受け取ると、頷いて見送る)
―明けて早朝、ブラムの姿は再び学院の前にあった。
ブラム:「やっぱり早起きは気持ちがいいねっ!」
(深呼吸をしながら、サンドイッチの束と荷物を背負い学院へ向かう)
学院の前でしばらく待つと、旅装姿のハインツが門から出てきた。
ブラム:「ハインツさん、おはよう!ごはんは食べれた?」
(学院前をうろうろしながら、ハインツの姿を見かければ声をかける)
ハインツ:「よおブラム、昨日は差し入れありがとな。美味かったぜ」
軽く片手を挙げると、ハインツは行く途中に買っていくつもりだと告げる。
ブラム:「まずはギルド前で待ち合わせなの。昨日と同じのだけど食べる?」
(旧冒険者ギルドに向かいながら、朝食用サンドイッチをパクついて)
ハインツ:「そりゃありがてえ。んじゃ、貰おうかな」
二人はギルドに向かって歩いていった。
天聖暦1047年 天静の月 旧冒険者ギルド
出発当日早朝、陽もまだ完全に姿を現していない頃、ギルド前に一人の女性が歩いてきた。
マリア:「ん...。朝って言ってもちょっと早すぎたかな? 」
(きょろきょろと身内の姿を探し、風の当たらない壁際のあたりに陣取る)
次いでシェーンがギルド前を訪れる。
シェーン:<やっぱり冷えるなー・・・>
(白い息を吐きながら防寒具を着込み、細剣を携えた女性が旧冒険者ギルド前へと現れる)
しばらくするとナークが駆け足でギルド前にやってきた。
ナーク:「あ、皆〜。これからよろしくねー」
(大げさに手を振る)
シェーン:「あ、おはようございます。今回はよろしくお願いしますね。」
(同行する仲間達を見つけ、笑顔で挨拶する)
最後に、一人の魔術師風旅装に身を包んだ男を連れたブラムがやって来る。
ブラム:「おはよう!この人が学院からきてくれたハインツさんっ!…呼び方は…ハインツでもダイジョブ?」
(旧冒険者ギルドに集まっているメンバーにハインツを紹介する)
比較的小柄で、金髪碧眼のどこかやんちゃな雰囲気のする若い男は、ざっと一行を眺めて軽く片手を挙げた。
ハインツ:「よお、よろしくな。学院のハインツ=シェルゼンだ。ハインツでいいぜ」
マリア:(ハインツを見つけると、そちらを振り返って手を揚げる)
「や、私はマリア。さっきも言ったけどしばらく一緒に行動することになると思うから。ヨロシクね。」
シェーン:「あなたがハインツさんですか、シェーン=ドゥルキスといいます、初めまして。
同行していただけて嬉しいです。」
(魔道士風の男を見つけると、にっこりと微笑みながら自己紹介)
ハインツ:「よろしくな、姉さん達」
一通り挨拶が済んだところで、マリアが声を上げる。
マリア:「ん、みんな揃ったみたいだね。それじゃこれからしばらくの間ヨロシクね。」
(軽く挨拶をして、冒険者ギルドの建物へと入っていく)
シェーン:「では、登録に行きましょうか・・・」
(旧冒険者ギルドの建物内へ入って行く)
身軽にナークが先に入ってしまっているようだ。
ナーク:「すみません〜。遺跡調査の登録に来ましたー」
(受付に行き、そう伝える)
受付:「ん・・・一人か?」
(やや眠そうな顔を上げて)
ナーク:「一人じゃないですよー。私に、マリア、ブラムに後二人いますー。」
(受付に今回のメンバーを言う)
その後に続いて、メンバーが続々とギルド内に入ってくる。
シェーン:「シェーン=ドゥルキスです。遺跡調査のお仕事をここの皆さんと請けたいのですが・・・」
(仲間達の方を見やりながら、受付に依頼を申請する)
受付は登録作業を一通り済ませる。
マリア:「というわけで、このメンバーで遺跡調査の依頼を受けるけど、注意とか説明とかある?」
(ギルド員に促して、注意事項なんかを聞いておこうとする。)
受付:「そうだな、じゃあ早速行けるように馬車に伝達しておくよ。
一応、御者が道中の世話係という事になってるから、困った事があったら言ってくれ。
向こうで手に入れたものは持っていってもいいが、一応詳細の報告は欲しいところだな」
こっちからはこんなもんだ、と受付は締めくくる。
ナーク:「それじゃ、よろしくお願いしますねー」
(登録が完了したらぺこりと頭を下げてギルドを後にする)
ブラム:「うんっ!しゅっぱ〜つっ!」
(メンバーと共に馬車乗り場へ移動する)
一行は冒険者ギルドを辞すと、その足で馬車乗り場へ向かった。
天聖暦1047年 天静の月 馬車乗り場
朝、馬車乗り場はそれぞれの方角へ向かう馬車でやや混雑している。
マリア:「さて、今回連れてってくれる馬車は...。っと」
(やはりここでもきょろきょろとして、目的の馬車を探す。)
しばらくすると、一行を見つけた御者が近づいてきて人員の確認をとる。
次いで、今回乗っていく馬車のところへ案内された。
2頭立て6人乗りで、5人組の一行ならややスペースに余裕があるだろう。
ブラム:「へぇ…これで行くんだ…お馬さんも、運転手さんもよろしくねっ!」
(馬車を眺め回し、御者と馬に挨拶してから乗車)
マリア:「んじゃ、こっから長い道のりになるけど、色々ヨロシク!」
(御者や同行者が居れば、そちらに声をかけながら手 を揚げて挨拶し、馬車に乗り込む。)
ナーク:「今回使う馬車ってこれ?これかな??」
(真新しい物を与えられた子どもの様にはしゃいで馬車内に乗り込み)
シェーン:「さて、出発ですねー・・・」
(仲間に続いて、馬車に乗り込む)
荷物などの最終チェックを済ませて、御者が御者台に乗り込んだ様だ。
シェーン:<長時間乗ってるとなかなか大変なんだよね・・・>
(とか思いつつ、座る場所に毛布を敷き、その上に座る)
ブラム:「そだ…ハインツ、あれから分かった事とか…ある?入り方とか…。」
(一段落後、共有しておく情報は無いかを問う)
ハインツ:「そうだなあ、色々あるが・・・ま、道中にでもゆっくり話すとするぜ」
一行を乗せた馬車はゆっくりと走り始め、やがてガウディの市門を抜けて行った・・・