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珀錫の月

傍観記者シリーズ~街道掃除~

 何時の頃からガウディからシーポートまでの街道で乗合馬車が行方不明になる事件が発生するようになった。やがてこの事件がこの街道付近の砦に住み着いたゴブリン達による襲撃であることが明らかになる。彼らは王を抱きその総勢は五十体を数えたそうだ。
 リオンに対して戦力を割いている今、ガウディにゴブリンに対して割ける戦力の余裕はなく、討伐は困難を極めるものだと考えられた。ゴブリンの王は春になるまでは安穏としたその生活を謳歌できるはずであっただろう。しかし、この砦に巣食っていたゴブリンの王はわずか八人の冒険者達によって一晩で平らげられることになった。
 冒険者達は少数精鋭で砦に攻め込み、一気にゴブリンの王を打ち倒したらしい。その戦い方は実に単純明快、堂々と入り口から踏み込み力ずくでねじ伏せる。彼らの前に立ちはだかったゴブリン達は次々にその命を散らし王への道が切り開かれた。王はその巨体をゆらし、巨大な斧を振り回しながら抵抗したが、さしもの王も彼らの攻勢の前に倒れ伏すこととなり、無事に街道の大掃除は終了した。

「一人頭五体以上の割り当て。ホブゴブリンやシャーマンも居ただろうによくこなせたもんだな」
「それだけの勇者が集まったって事なんでしょ。良いニュースじゃない」
あたしは筆を置きながら今日ものんびりコーヒーをすすっているクロに話しかける。
どんな戦力が集まったのかは今となっては解らないが頼もしい話であることは間違いない。
あたしは明るい記事が書けたことに満足しながら自分のカップにも注がれていたコーヒーに口を付けたのだった。

傍観する記者:ミミザ=エールウィンド
文:レム睡眠


傍観記者シリーズ~閃光の悲劇再び?~

 星輝の月24日の深夜にその事件は起こった。以前からあくどい商法で噂になっていた北地区のグレディ商会の敷地が轟音と閃光と共に忽然と消え失せ、社長のグレディ氏が行方不明になったというのだ。お隣などは閃光の悲劇の再来だと大騒ぎしていたものだ。その事件を聞いた翌日に私も見物に行った。自警団に阻まれた現場には昨日までは確かにあったはずの悪趣味な看板を掲げた建物は視界から消え失せていた。そしてその跡地はちらっと見えただけではあるが巨大なクレーターが出来ていた。事件当夜グレディ氏は商会内にいたそうだがあれでは生きてはいまい。良い噂は聞かなかったが死者の悪口まで書く必要は無いだろう。
 事件そのものはこの商会が魔法の道具を扱っていた事から管理していた魔導器が何らかの原因で暴走、結果敷地の消滅と社長のグレディ氏の死亡を招いたのだと発表されるだろう。商会の敷地以外に被害が及ばなかったのは不幸中の幸いである。
 しかし私はこの事件の取材の中で奇妙な証言をいくつか聞く事になった。それは閃光が発生する二時間ほど前の事だったそうだが、グレディ商会の方から何者かが争う音と鈴の音が聞こえてきたらしい。また、閃光の後に天使を目撃したと証言する住民にも出会った。これらの意味するところはなんなのだろうか?天使や鈴の音は単なる魔導器の暴走の副産物なのか、それとも何らかの意味があるのか。しばらくガウディはこの噂で持ちきりとなる事だろう。

私はこの事件についての記事を書き上げると窓の外を眺める。あの事件からもう三年近く経った。世界の情勢は代わり、表には出てきていないがガウディもより不安が満ちてきたようだった。だからこそ思う。
「店ごといろんな道具が吹っ飛んだのはもったいなかったなぁ」

傍観する記者:ミミザ=エールウィンド
文:レム睡眠


傍観記者シリーズ~ダブルラブストーリー~

 大抵の場所において女性はおまじないというモノが好きである。かく言う私もその手の類のものは好きで公園で見つけた四つ葉のクローバーは今でも大切なお守りである。
 さて、世の女性がおまじないに込める願いとしてやはり恋愛は外せないだろう。今回の記事もとある二人の男女の恋を成就させるために、おまじないの材料を捜して冒険者が四苦八苦するというお話である。
 事の起こりはある若い兜職人が彼女に身に覚えのない浮気を疑われ、疑いを晴らしたければ西の森にあるという誰も見たことがない恋愛のお守り「天使の輪」を捜してこいと言われた事だった。もちろん街の外に一人で出るなんて出来るわけもなく彼は冒険者を三つ目の巨人亭にて雇うことにした。ここまででも十分に不幸だったのだがやがて彼はそれ以上の不幸があることを知る。何しろ自分が雇った冒険者の仲が険悪を通り越して憎悪に満ちあふれていたのだからたまったものではない。女性に言い寄るのが趣味の女性と、その女性を毛嫌いし、機会があれば抹殺をたくらむ彼女の被害者との間に挟まれた依頼人と他の冒険者の気苦労は相当なものだっただろう。しかしこの記事を書いている私はその光景に笑いを禁じ得ない。
 結局この時は誰も欠けることが無く無事目当てのものを見つけることが出来たようであるが、もしこの次があればその結果はどうなるのか?想像はふくらんでいくばかりである。

「結局『天使の輪』ってどんなものだったのかしら?」
記事の清書を終えると私はこの話をしてくれた彼に尋ねた。
「聞いたところによると天使の輪って奴は白蛇の抜け殻だったそうだよ」
それを聞いて私は随分と嫌そうな顔をしたのだろう。彼はとても不思議そうな顔で私を見ていた。
「ロマンティックとはかけ離れた代物ね。よくそんなもので彼女が納得したわね」
あたしの問いに彼は耳をひくつかせ肩をすくめながら言った。
「形なんて関係無いのさ。何しろ誰も見たことがないんだ。それにロマンティックな逸話をつけて君のために頑張ったんだよって殺し文句をつければ一発だよ」
重要なのは形じゃないとは言うけれど私などはやっぱり形も整ったものの方がいいと思う。

傍観する記者:ミミザ=エールウィンド
文:レム睡眠


傍観記者シリーズ~第三次外周区攻防戦~

 天静の月11日、この日は歴史に刻まれることになるだろう。この日の早朝、ガウディ近辺に陣を張っていた妖魔軍を殲滅するべく傭兵主体の部隊が進軍した。世に言う「第三次外周区攻防戦」である。蒼天騎士団がその戦力をリオンに割き、ガウディ全体の防御力が低下していた中、この街の運命は彼らにゆだねられたのであった。
 戦闘そのものは朝日が昇るまでに決着がついたそうである。しかしその短い時間の中での戦いの内容は一つとして尋常なものは無かった。中央の部隊の前には世にも恐ろしいジャイアントが立ちふさがり、左翼は人員不足からか極端な不利を強いられた。そんな中、右翼では状況の打開を狙って敵の指揮官であるダークエルフを奇襲しようとして動いていた一団があったらしい。残念ながらその試みは失敗に終わったそうだが彼らのその大胆な行動に私は敬意を表したい。結局右翼は狂発したダークエルフの魔法により崩壊し、左翼は苦しい戦いを凌ぎきった。そして中央に出現したジャイアントは後に「血化粧の死神」「不屈の蒼」と並び称される二人の英雄の活躍によって倒されたそうだ。我々はからくも勝利を収め、朝日も彼らを祝福したのであった。

「ジャイアントだが、この二人だけの力で倒したと言うわけではないらしいね」
徹夜で記事を書き上げた私が珈琲を飲んでいると最近我が家で朝食を取ることが日課になっている彼が話しかけてきた。
「まあそれはそうでしょうね。あれだけの混戦だったわけだし」
彼らが卓越した戦士であることは誰もが認めるところである。それにわざわざ士気をそぐような記事を書く必要はないだろう。人々の希望のためにも、そして記事の売り上げのためにも。
「そうそう、朝日が昇る頃ににたくさんの傭兵達が声を聞いたらしいな。この戦いは俺たちの勝ちだって言う謎の声をね。あれはやっぱり噂の本陣攻撃隊の連中が魔法で話しかけたのかな?」
それは興味深い話である。何しろいつの間にか打ち破られていた本陣を攻撃した部隊の話は全く流れてこなかったからだ。
「今回の作戦に合わせて別働隊が組織されてたんだろうけど、一体どんな戦いだったんだろうな」
相棒の言葉に私は想像の羽を広げる。恐らくかの三部隊に負けず劣らず壮絶な戦闘だったのだろう。

傍観する記者:ミミザ=エールウィンド
文:レム睡眠


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