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神滅の月

傍観記者シリーズ~黄身無しでは~

 「たまご~たまごはいらんかね~」最近朝早くにこんな声をよく聞くようになった。
ガウディ近郊の農民の子供がたまごを売りに歩いているのだ。
 農村アンウィルの復興はガウディへの食料の安定供給をもたらした。
そしてそれはガウディ近郊で農業を行っていた者たちにある変化をもたらし始めている。
すなわち、家畜の飼育や嗜好品としての作物の栽培である。
流石に放牧が必要な牛などの大型動物は飼育されていないし、嗜好品としての作物栽培と言ってもその量は微々たるものである。
まだまだ食料は万人に十分に行き渡っているとは言えないのだから。
それでも多少なりとも余裕の出来たものは耕地のいくらかをさいて鶏を飼い、幾ばくかの野菜や果物の栽培を始めている。
食卓に彩りが戻り始めているのだ。
特にたまごや鶏肉などは人気のようだ。かつてゴブリンの肉を食べていた身からすればなじみのある肉が手に入りやすくなったのはうれしい話であるし、精をつけられずに病気や怪我に負けて死んでしまう人にとってはまさに福音なのではないだろうか。

「などという記事を書きながら私は今日もジャガイモのスープをすすっている、と」
「文句ばかり言っている間に冷めるぞ」
なんだかんだ言ったところでまだまだ肉類はそこそこ高級品なわけで、あたしのような貧乏人には易々と食べられるものではないのである。
「ねえ、あたし達も自由にたまごが食べられる日が来るかな」
たまご売りの子供の声が遠ざかるのを聞きながらスープをかき混ぜる。
「さあ、どうかな。まだまだ麦やなんかの方が優先的に作られるはずだからな。
それに最近は家畜を狙って山の方の獣やゴブリンなんかが降りてくることもあるらしいからなかなか増やしにくいだろう」
全く、我が同居人は現実的でいけない。
「そういえば、たまごを狙った泥棒の話も聞いたな」
それは聞き捨てならない。手に塩かけた末の実りを奪われる事がどれだけ悔しいことか。私も原稿料を踏み倒されたときは・・・
なんにせよ、家畜が増えるにはまだまだ障害は多そうである。
「はぁ、お肉でパーティが出来るのはまだまだ先か」
スプーンをくわえながら私はため息をついた。

傍観する記者:ミミザ=エールウィンド

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