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天静の月

遺跡調査

天聖暦1047年 天静の月 エイラ湖畔

ある月光の夜。
その湖のほとりに、2つの影が佇んでいた。
1つは大きな獣の姿。そしてもう1つは、少女の姿をしていた。

「”あの時代”にこれだけの事ができるなんて、大したものね」

少女は呟くと、開いていた薄い四角の二枚板を畳んでマントの裾に入れた。

「てっきり、どこかの誰かさんの気まぐれでも始まったのかと思ったけれど」

「…主、これは一体何なのです?」

闇に溶け込むような体毛の獣は、少女に顔を向けるとそう人語を発した。
少女は長い白金の髪を揺らすと、血のように鮮やかな紅い瞳を城に向けた。

「少なくとも、私が探しているものとは違うわ。…どうしたの?」

忠実な獣の、常とは違う雰囲気を感じ取り、少女は声をかけた。
狼に似た獣はしばらく城に向かって鼻をうごめかせていたが、やがて口を動かした。

「…同胞の匂いがします。あの中から」

「貴女の?」

少女は小さく驚きの声を上げると、改めて城を見やった。

「在り得るわね。貴女もまた、”あの時代”に生まれたのだもの」

「主…」

獣の短い言葉に頷くと、少女は左手を軽く横に払った。
どこかの光が、静かに闇に飲み込まれていく。それは星が消える姿に似ていた。
やがて湖上の城は見る間に元の姿を取り戻し、重厚な外観を湖面にゆったりと映した。

マントの裾を払い、黒い獣の背に乗った少女は、半瞬の躊躇いの後、それを口にした。

「…わかっているわね?シュヴァルツ」

「はい、我が主」

対して、獣の返事に躊躇いは無かった。
数少ない同胞だからといって、友好的な対面になるとは限らない。
覚悟を伴う悲願である事を、この獣も、その主も、重々に承知していた。

主を背に乗せた獣は、湖に向かって駆け出した。
水面に波紋が浮かび、獣はその先を飛ぶようにして駆け抜けていく。

彼らの影が城の向こうに消える頃―
それは淡い光を取り戻し、城は再び明滅を始めるのだった・・・


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