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遥照の月

救出と奪還と勝利

救出と奪還と勝利の吉報が届けられてすぐ、ガウディは蒼の騎士団をはじめとした解放都市同盟軍の者たちを迎え入れるための準備が開始され、準備の段階からお祭り騒ぎとなっている。
サーゲオルーグに捕らわれて奴隷として生きることを余儀なくされた多くの者たちや、この機会に脱走を果たしたサーゲオルーグの貴族たちはまさに今回の侵攻により救出された者たちであり、その中でも解放都市同盟に喜びをもたらしたのはアンガルスク二世の実の母親であるフェイシャル妃とシーポートのニル卿の妻であるフォルティアナ様をはじめ、サーゲオルーグの名を持つ四王女の母親であるミネス妃の救出と言えるだろう。
今回はサーゲオルーグへの牽制が目的であると評議会は発表していたため、戦端が閉じられた後に届けられた二王妃救出の報は、ガウディの街の活気を盛り上げるのにさらに大きな一役を買ったと言えるだろう。
実際、この妃の救出こそが今回の侵攻の隠された真の目的であったのではないかとまことしやかに噂されているほどである。
しかも、チェスターが発表していた【デュセスの女神】ヴィクトル=フォン=デュセスの処刑が嘘であった事実も、この救出劇により実際に処刑されようとしていたのが二人の王妃であるという事実が公表されることにより暴かれることとなった。
これはチェスターによって隠蔽から真実を奪還したということになるのではないだろうか。今回の件を受け、隠居を続けていたデュセスの女神は自ら剣を持って立つことを決めたということをガウディ評議会を通じて発表している。
救出と奪還を含めた全ての勝利に対し、もっとも貢献したとされているのがバーネッツ領内においてゲリラ活動を続けていた傭兵団ミッドナイトガルムの団長であり、【番犬の手繰り手】の二つ名を持つダグラス=サー=ヘルシングであるといわれている。
サーゲオルーグの東門を突破して今回の救出における脱出口を抉じ開けた功績は今回の二王妃救出における最大の功労者である黒豹アースクラインと並び最大の賛辞を贈られるべき存在と言える。

最大の賛辞を贈られるべき黒豹アースクラインといえば、まさに今ガウディにおける最大の有名人であり時の人である。
「勇者の称号」の授与の式典における【戦場の鬼神】の二つ名を持ち、今回【勇者】の称号を授与されたジョン=クラウンの大立ち回りが彼をこのガウディにおいて最も有名な「名」を持つ冒険者としたというべきなのだろう。
アースクライン=フォン=ガウディ……それが冒険者アースクラインに贈られた名である。「ガウディのために最大の功績を果たした」という理由で贈られた名であり、貴族としての地位も含め、それは彼が冒険者を引退して正式に受け取ることを決意した時に贈られ、彼が死を迎えるまでの間の生活を含めてガウディ評議会が保障するという特別な意味を持った彼のみが名乗ることを許される一代限りの爵位である。
彼が死んだとしても、それまでに保障される生活費を含めた額を考えれば曾孫の代くらいまでは何不自由の無い生活が保障されているといっても良いだろう。
実は、今回の妖都侵攻にあたり、その効果の最大化をはかるため、ガウディ評議会は歴戦の冒険者たちに対し、妖都サーゲオルーグに侵入を依頼しており、その侵入が結果として救出劇の立役者を生むこととなった。
今回の救出における立役者たちに勇者の称号を授与する授与式に参加した冒険者の数は十人、ガウディ評議会より密名を受けて参加した代表者十六名のうち、生還したのは二名、その代表者に率いられるようにしてサーゲオルーグへと侵入をするなどして今回の件への参加をした冒険者の数は百名程度と言われているが、その中で生き残った数は把握できているだけで十六名と言われており、生還率は二割を切ったといわれている。
これだけ多くの腕利きを失ったのは冒険者ギルドをはじめとした各ギルドにとっては大きな損失となったといわざるを得ないだろう。
それゆえに、今回の勝利はその代償であることを忘れてはならないし、戦場において散っていった者たちを含め、追悼と感謝の意を忘れてはならない。

授与式も終わり、ガウディは沸きに沸きかえっている。
けれど、あの授与式の光景は見ていた誰の目にも、もう一つの美しい光景をも与えていたのではないだろうか。
穏やかな母親としての笑顔を浮かべて王である我が子を見つめるフェイシャル妃。
信頼を込めた笑顔で支えるべき相手として若い王を見つめるミネス妃。
絶望していた母親との再会の機会をもたらした愛すべき弟を見つめる四王女。
そして、武勇を馳せた父「ヴィルヘルム」の名を持つ軍の指揮官となることを宣言し、仕えるべき主君の顔を楽しそうな笑顔で見つめる最後のデュセスの血統……ルデュ。
例えるならば女神たちの寵愛を受ける王の姿であり、例えるならば誰もが夢見る幸せな家族の風景のようだった。
もたらされたそんな風景にも、このような勝利に酔う時間を迎えられたことにも、感謝という言葉を犠牲者たちに贈るほかにない。

「勝利か……」
口にするだけで無意識に頬が緩む。多くの犠牲を払ったが、きっと今回の出来事はそれに見合うだけの成果であったのだろうと私は思う。
「どうした。窓から眺めてもわかるこのどんちゃん騒ぎはお前には向かないか」
私は窓の外から聞こえている嬌声に頬を緩めながら、窓の外を眺めている彼へと話しかけていた。
「……いえ、なんでもありませんよ」
彼は表情も変えずにカップに注がれた紅茶へと口をつけていて、その様子から口を開くのを避けているような風にも見えなくなかった。
「浮かれている場合ではないと言いたいのだろうが、それでももう少し浮かれさせてやってはくれないかね。そういう時間が人には必要なのだから」
彼が危惧していることはわかるつもりだ。本当であれば今回の件に浮かれることなど何一つできないと私自身も知っている。それでも、そういう時間が私は必要だとなのだと思っていた。
本当の勝者が誰で、我々が用意すべき酒が鎮魂の酒でしかないことを知りながら、表向きだけでも勝利に酔いたいと。私はそう願わずにはいられなかった……。

記事:ウェイト=オン=サンク


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