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銀光の月

王の誕生と解放都市同盟

薄曇の灰色の空からは今にも雪が降ってきそうな……そんな天気の中で、「天聖暦1045年銀光の月一日の宣言」は始まった。
ガウディ評議会の名の下、ガウディとシーポート、そしてリオンの三都市が対妖魔王国の同盟を結んだという発表に、ガウディの人々は白い息を弾ませた。
「解放都市同盟」……それは、解放を願う者たちが集う都市の間で結ばれた同盟。
そして、解放都市同盟に「傭兵都市リオン」とその統治者として「ジークフリード=フォン=ノキア」の名が呼ばれた時、人々は「豪雄」として知られる「ノーザン血盟の主」に対し、敬意を込めて胸に手を当て、そして、その歓喜を喝采によって爆発させた。
ガウディの街中でジークフリード卿の名が連呼され、そしてシーポート統治者であるニル卿の名が連呼され……「解放都市同盟」の名が連呼された。
まるで自らを鼓舞するかのように雄叫びを上げる者たちの姿を頼もしく、そして、昨年一年間がどれだけ厳しい一年であったかを物語るような雄叫びだったのではないだろうか。
王都サーゲオルーグの陥落によってガウディは一時期あまりにも近くまで敵を迎える結果となり……これまで妖魔王国からの侵攻を退け続けてきたとはいえ、シーポートに支えられているとはいえ、孤立無援の状態で対妖魔王国の最前線の戦場となり続けてきていた。
しかし、傭兵王国リオンが同盟に加わったことにより、二方面から妖魔王国を迎え撃つことができる状況となった……これは戦略面で非常に大きなことだと誰にでもわかっていることであった。
そう遠くない日にリオンが陥落することを予期しながら、ノーザン血盟の主がリオンの統治にあたることは陥落を容易なものでないとしただけではなく、いつの日にか訪れることが予想されていたリオンとサーゲオルーグからの二方面からの侵攻を、もしかしたらジークフリード卿の力によって防ぐことができるようになったという事実に人々はほっとしたというのも大きな要因であったことだろう。

そして、この日……もう一つの大きな宣言がなされることとなった。
それまでガウディの街中に響き渡っていたノーヴァ卿の年老いた声が、急に若々しい若者の声に変わった時、人々はついにこの瞬間が来たと思ったのではないだろうか。
ガウディの民の全てが息を呑んだ瞬間、静寂にガウディが包まれた瞬間……その若々しい声は高らかに宣言した。

我、アンガルスク=フォン=サーゲオルーグは、アンガルスクの名を継ぎ、アンガルスクⅡ世として正式にサーゲオルーグ王国の玉座に今日、この日に座したことをここに宣言する


ガウディの街に響いたその宣言は……まだ二十歳にも満たない若者が、若者であることも、私人であることも辞めた瞬間を意味していた。
そして、響き渡った歓喜の声は、まさにガウディという街を揺らすほどのものだった。街中で紙吹雪が雪のように舞い、人々は持っている楽器をかき鳴らし、まさに浴びるほどに酒を飲んだ。
生まれながらに英雄となることを期待され、そして、期待に背くことも許されなかった若者は……逃げることも、敗北することも許されなかった若者は……その日、すでに失われた王国の王として名乗りを上げた。
人類種の滅亡……そんな不吉な出来事が妖魔王国の侵攻によって現実味を帯びている中で、最大の希望を背負う生まれながらの英雄の「王」という決断をガウディの人々は歓喜を持って迎えた。

彼が死ぬことは……愚王として妖魔種の歴史に嘲りを持って名を残すことになるのだろう。
彼が生きることは……敵王として妖魔種の歴史に怨嗟を持って名を残すことになるのだろう。

彼が妻を娶れば、子が生まれれば……その存在自体が敵であり、そして暗殺に狙われ続けることとなるのだろう。
それは、彼の血筋であるというだけで子々孫々まで永遠に……妖魔種が存在する限り永遠に続く呪縛に他ならない。
それでも彼は「王」として決断を下した。
「解放都市同盟の盟主」としての決断を、アンガルスクⅡ世は「王」として決断した。
「解放王」……その名が大陸に響き、人類種の歴史に崇拝としか形容できないほどに神格化されて残ることを誰もが祈らずにはいられないのではないだろうか…

記事:ウェイト=オン=サンク


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