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蒼碧の月

新たなる同盟

天聖暦1045年・・・蒼碧の月


新たなる同盟



そのガウディ評議会からの発表は、まるで突然のスコールがガウディを襲ったかのように突然の発表であり、しかしながら、求めていた命の水が激しく降り注いできているかのように心強い出来事に他ならなかった。
「ヴォンジア島のヴォンガが解放都市同盟の一員として共に妖魔王国との戦線に参加することとなった。彼等はヴォンジア島の緑豊かな恵みの一部を我々へと提供するとともに、解放都市同盟からの技術者を受け入れ武具生産に関しても支援を行い、さらには緊急時における解放都市同盟からの避難の受け入れについても合意の意思を表明してくれている。今後はよりいっそう互いの交流が深まることだろう」
解放都市同盟の盟主としてそう高らかに宣言したアンガルスク二世の言葉に、二ヶ月前に妖都サーゲオルーグから女神たちの奪還を終えたばかりの民衆たちは彼の名前を激しく連呼して盛り上がることとなった。
今月中旬にヴォンガから戻った海燕号にアンガルスク二世の姉であるアリネス=フォン=サーゲオルーグが乗り込んでいたという噂があったが、どうやらそれは噂ではなく事実であり、その結果として今回のヴォンガの同盟への参加が実現したのだろう。
……そう、このヴォンガの同盟への参加は非常に大きな意味を持つ。
現状、解放都市同盟は傭兵都市リオン、港湾都市シーポート、千年都市ガウディが主軸であり、それらの都市はすべて大陸の西方に集まっているだけでなく、すべてが港を持つ街である。
傭兵団ヴィルヘルムの活躍などによりシーポートを中心として岐路の街フィンディアを経由したゼクスセクス王国との交易は順調にその量を増しているところであるが、その上に豊富な資源を持つヴォンジア島のヴォンガが加わることは交易量の増加を見込めるだけではなく、街の周囲を包囲された際にも海路により脱出することができるようになったことを意味している……それはガウディから戦略的撤退を余儀なくされた際にヴォンジア島において再起をはかること念頭に入れた戦術を用いることができるようになったということを意味している。
実際のところ、ガウディを失えばそれは解放都市同盟の敗北となるだろう。
それでも完全な背水の陣で戦うことになったとしても、主要人物と民間人を逃がすことができるというのは精神的な余裕を生み出すことになるだろう。
今回の件が調印ではなく調停であることは第三者としてアリネス=フォン=サーゲオルーグ個人が動いたことからも明らかであろう。
実際、ガウディを含めた解放都市同盟は妖魔王国との戦争状態に突入してから、ヴォンジア島の資源について可能な限り多くを求める傾向が顕著であり、その一方的とも言える要求によりお互いの緊張をいつ紛争へと変化させてもおかしくないほどに高めているという現状が見え隠れしていないことはなかったのだから。
だが、今回ヴォンガより寄せられた言葉には、そのような過去の遺恨に近いことについては一切触れられていなかった。
「ヴォンガの街の領主であるライカ=ストライクスはアリネス=フォン=サーゲオルーグ個人の多大なる功績を、ヴォンジア島を代表して感謝するとともに、今後可能な限りの資源の提供だけでなく、難民の受け入れを含めて解放都市同盟への参加を申し入れるものである」
短い文章でありながら、そこにはアリネス=フォン=サーゲオルーグへの絶対的な信頼と、解放都市同盟に対する忠誠に近いほどの従順の意が込められていた。
噂では、ヴォンジア島にあるファイルフェンと呼ばれる広大な森の死をアリネス=フォン=サーゲオルーグが回避することに一役買ったといわれ、さらには古エルフの都であるエルウィンの賢人たちがまでもが彼女に対して忠誠を誓った噂されているが、真偽の程は定かではない。
それでも……解放都市同盟が大きな支えを手に入れたという事実に変わりは無い。
まさに、妖魔王国に対して攻勢を仕掛けるための準備が全て整ったということに他ならないのではないだろうか。

「しかし、良くヴォンジアの協力を取り付けたものだ。海を隔てていることもあり、よほどのことがなければ積極的な支援を取り付けることはできないと思っていた」
その言葉に、彼は何も言わずに彼の定位置ともいえる窓際の席で紅茶を啜っている。
「先月の終わりにエルウィンの姿をヴォンガの街から見ることができたが、どうやらもう見ることはできないだろうというのがあの土地に住む森守たちからの言葉だったぞ。どうやら、よほどのことというのは、フェイルフェンの森の復活と考えるべきか、もしかすると、それ以上の何か……なんだろうな」
「……もしも貴方が砂漠に住んでいるとして、貴方も貴方の周囲の誰も知らないような清浄な水の湧き出るオアシスの存在をふらりと現れた旅人が教えてくれたとしたら、その交換条件に差し出されるものはそのオアシスの水の量で賄いきれるものなのでしょうか」
彼のその言葉に、私はしばし考える時間を欲した。
「賄いきれないな。それは人の一生では返しきれない恩義であり、子々孫々まで受け継がれるべき恩義となるのではないかな」
答えつつ、しかしそれだけの恩義というものはもはや恩義を越えて忠誠となるのではないだろうかと思う。それはきっと解放都市同盟という存在にではなく、その象徴となるべき者たちへの忠誠。
「重たいな」
私はぽつりと呟き、そして彼が微かに頷くのを視界の端に留めていた……


記事:ウェイト=オン=サンク

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