陽炎の月 千年都市ガウディ
外壁近くの市街地の中にぽつんと立つ、古い石造りの建物。
絶えず変動していく周囲の風景の中で、そこだけが時に忘れ去られた様だった。
かつては純粋に「冒険者ギルド」と呼ばれたであろうその場所に、一人の男?が訪れていた。
疑問符がつくのは、その顔が人のそれではなく、猫のものだからだ。
そんな人目を引くはずの外見を持ちながら、行き交う人々が誰一人として注意を向けてこないのは、男?の鍛錬の賜物なのだろう。
ネロ:「……?お、ここか。」
(思わず通りすぎそうになったが、看板が視界に入り足をとめる)
ネロ:「失礼、冒険者ギルドの派出所はここで良いのかな?」
(静かに中へと入り、辺りを見回しながら、係りの者を探し、声を発する)
受付:「派出所、というわけではないんだが...まぁそんなようなものか。仕事を探しているのかい?」
(本家との違いを逐一説明するのに疲れたか、ネロの言葉をいったん否定しつつも、さらりと流して問いかける)
ネロ:「ああ、いや今日は登録だけでいいんだ。」
(受付におどけて手を振って見せると、苦笑しつつ、相手の様子をつま先から頭の先まで一瞥する)
受付:「おっと、こいつぁうっかり登録の確認もしてなかったな。まずはこっちか」
(手を振るネロのために、改めて登録用紙を机の引き出しから引っ張り出して、ペンを構える)
ネロ:「名前はネロ=アベリノ。種族は見ての通り猫の獣人で・・・性別は男だ。職種(クラス)・・・という
か、得意なのは探索や交渉、斥候だな。」
(言わせるなよ、とばかりに片手で錠前を外す仕草をしてみせる)
受付:「ネロ=アベリノ、と。外見はまぁ見たまんまか。得意分野は...そっち系か。ココにはあんまり大っぴらにそっち系の仕事が入ってくることは無いんだが。まぁ遺跡探索だのそういう系統でよければ、覗いてみてくれ。」
(ネロの自己紹介を、こまごまと書き留めて、一応の注意事項を伝える)
受付:「で、仕事を斡旋するためには、今までの経歴も聞いておかなきゃならないんだが...」
(ペンを止め、ネロの武勇談を促して待つ)
ネロ:「・・・う~む。あまり実績らしい実績は無いのだが。」
(本当に困ったように、腕を組み、頭を垂れて考える)
ネロ:「まずは、ガウディ市街での警備隊に参加した事。
あんたが覚えてるかどうか知らんが、一昔前に『人食い事件』というのがあったろう?
夜毎に、人間が何者かに食われたような死体が発見され続けた一連の事件さ。
その警備隊に参加してね。俺の担当は中央区の下水だった。
ま、面構えからネズミ捕りに適任だとでも思われたんだろう。
犯人が発見された日も俺は下水に居たんだが、
急に西地区の方が騒がしくなったと情報が入ってね。
・・・それで。」
(少し声を暗いトーンに落とし)
ネロ:「・・・普通、西地区に行くと思うだろう?それがな、そうしなかったんだ。
下水から上がってみたら、中央区商店街の様子がおかしくてね。
夜なのに戸が開いている店があった。
不審に思って入ってみれば、瀕死の男が1人・・・。
仲間の神官と人命救助にあたったわけさ。」
ネロ:「・・・結局、そいつは助からなかったがね。
いや、懐かしいな・・・ちなみに、これがそいつの形見さ。」
(と、腰に止めてあるミスリルダガーを見せる)
受付:「あまり縁起のいい代物じゃぁないね。気をつけなよ?」
(死者の形見を身につけるネロに、かすかに眉をしかめて、それっぽいアドバイスを返す)
ネロ:「ん?真犯人?・・・そりゃ、西地区のヤツらが捕まえたさ。」
(肩をすくめて、当然だろう?とばかりにおどけてみせる)
受付:「まぁ、当たり外れは誰だってあるさ。他は?」
(肩をすくめるネロに、励ましの言葉をかけて、次を促す)
ネロ:「あともう一つ。印象に残っているのは『夢遊病事件』だな。」
ネロ:「夢遊病のような症状が現れ、人々が夜な夜な街を徘徊する奇妙な事件だった。
ただの病気にしては不特定多数の患者が発生するんでね。冒険者の出番というわけだ。
酒場の知人たちとパーティを組んで、調査に乗り出したんだが、これが難航してね。
・・・たどり着いたのが、夢遊病患者を保護した紅獅子亭という酒場の主人。
元屈強な冒険者でオカマという変わり者だったんだが、腕は確かだった。
そいつがな、叩きのめされたんだよ・・・・夢遊病の患者に。」
ネロ:「おかしいと思うだろう?元冒険者が一般市民に叩きのめされる・・・。
で、俺はその叩きのめした患者を追っていったわけさ。
そして、東地区の墓地にたどり着いた。」
ネロ:「そこに居たのは、謎の少年と夢遊病患者だった。
あんたもギルドの職員なら分かるかと思うが、その少年は人間じゃなかった。
おそらく『魔族』さ。
で、どうしたと思う?相手は魔族と化け物じみた夢遊病患者だぞ。」
ネロ:「・・・・逃げたよ!ボロボロになりながらな!」
(机に身を乗り出し、ヤケクソのような自信たっぷりに)
受付:「無理に突っ込むばかりが能じゃないとは思うけどね。ただ逃げるだけってのは問題だが...」
(逃げた、という叙述のところでいったん筆を止める)
ネロ:「結局のところ、事件の真相は分からずじまい。
魔族の言ってた『儀式』とか『時が来た』みたいな話は当時のギルドに伝えたが、
ま、解決への手がかりはほど遠かったというわけだ。」
(机から身を引き、ため息混じりに言葉を結ぶ)
受付:「まぁギルドへの報告が出来てたんなら、後の対処はこっちの問題だからな」
(「報告・対応」と言う記述で締めくくり、二枚目の用紙を取り出す)
ネロ:「あ~、すまん。情け無い話ばかりした。
生来、自分を過小評価するタチでね。・・・登録情報としては適切でないな。
まあ、他の仕事は・・・言える範囲なら、アウラ湖に薬草を取りに行ったり、
ライミ山に茸を取りに行ったり、荷降ろしの仕事中に白狼団という珍妙な盗賊団を追っ払ったり、
やっぱりアウラ湖に行って水の精霊とやらに会って来たり、という感じだな。
他はスマンが言えん。・・・文字通り『地下』の事なんだ。」
受付:「過大評価よりは助かるが、「何が出来るか」だけはきっちり示した方がいいと思うね、依頼を受けるには。口が堅いのはいいことだと思うし、「そっち」の仕事聴かされても困るといえば困る。」
(ネロの列挙する「仕事」を次々と書き留め、いくつかのアドバイスを返すと、登録用紙に日付と署名を入れる)
ネロ:「と、こんな感じでよろしいかな?」
受付:「あぁ、コレで十分。依頼はそこの掲示板に貼りだされたり、こちらから斡旋したりというところだ。時々覗きに来てくれればいい」
(吸い取り紙をあてて、インクを乾かした登録用紙を、いくつかに区分けされたキャビネットに収納しつつ、ネロを見送る)
ネロ:「では、よろしく頼む」
(静かな足取りでギルドを後にする)