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補給任務

補給任務(第一話)

天聖暦1048年 珀錫の月 オフィスコ郊外

「…おいおい、今晩のメシはこれだけかよ?」
傭兵の一人が、皿の中を覗き込んで怒りの混じった嘆き声を上げた。
皿を持って後ろに並ぶ傭兵達も、用意された量を見て顔を見合わせる。
「今日はオーガとやりあって酷え目にあったんだ、もうちょっと食わせてくれよ」
「それでも多くしたんですよ、特別にね」

配給担当の傭兵はにべもなくそう言い切り、さっさと退くよう顎をしゃくった。

「隊長、最近補給が滞りがちじゃねえですか?」
具の少ないスープの皿を手に、傭兵は傭兵部隊本陣のテントをくぐってそう言った。
折りしも傭兵隊長も夕食に手をつけた所だったが、皿の中身は当然皆と同じである。
「食料だけじゃねえ、武具やら衣料やらも足りないんで、皆つぎはぎだらけで」
「…分かってる。今調べさせてる所だ」

言うまでもなく、戦争の基本は補給である。妖魔との戦いでも、それは変わりない。
一騎当千の勇者も、千里を駆ける名馬も、食料無しには働く事が出来ないのだ。
ここ数週間、ガウディからの補給部隊が襲われる事件が多発していた。
全てではないが、被害は全体の3割にも及び、確実に戦場に影響が出ている。
…いつものことだが、特に傭兵部隊が割を食っていた。

「大体、つかめやしたぜ」
一日、本陣のテントに調査担当の傭兵が入ってきて隊長に告げた。
「街跡、林道、岩場。この三箇所に集中してやすね」
「ふん…ありがちな場所じゃねえか。騎士団の連中は何やってんだ」

その理由を分かっていながら、傭兵隊長は鼻でせせら笑った。
補給部隊は騎士団と傭兵部隊が分担して行っているが、襲撃されるのはほとんど騎士団だった。
騎士達は補給という地味な作業を嫌がる者が多く、せいぜい付いても責任者として一人か二人。
それ以外は従者か、雇われの非戦闘員が中心という有様で、襲撃時は始めから勝負にならない。

「情報をまとめやすと、首領はダークエルフらしいです。あとはホブやらゴブやら」
「ふーん…騎士団に動きは?」
「いえ、今の所…」
「そりゃ、自分のメシ皿から具が減ってなきゃ、危機にゃ感じねえわな」

傭兵隊長はかかと笑うと、ばんと思い切り机を叩いた。
「その情報を人様でも見れるように体裁を整えて、FFG…いや、冒険者ギルドに使いに行け。
連中の方がこういった事にゃ慣れてるだろうからな。その腐れダークエルフの首に賞金だ」


「冒険者ギルドと…ここか?なんだか寂れてやがんなあ…」
傭兵は、ぼやきながらその扉を開いて中に入っていった。
…看板に記された”旧”の字を見逃して。

依頼内容:物資輸送
依頼者:オフィスコ派遣傭兵団(FFG在籍)
場所:オフィスコ郊外傭兵部隊野営地
報酬:基本報酬30S(一人頭)+ダークエルフ討伐で+1G(全体で)
募集期間:珀錫の月15日まで
募集定員:最大6名
追記:なお、行き来の経費はギルドが負担する。

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補給任務(第二話)

天聖暦1048年 珀錫の月 オフィスコ郊外

冒険者の人数不足で護衛の荷が送れない、と旧冒険者ギルドからの通達が届く。
ガウディには大勢の冒険者が居るはずだ、そんな筈あるか、という傭兵団長は怒鳴ったが、
実は届けていたのは”旧”冒険者ギルドだった、という情けない事実が判明するまで、
オフィスコ在の傭兵達は料理皿に乗る少ない具で戦場に立たなければならなかった。
日に日に被害は増大し、戦線は傭兵部隊側からオフィスコ方面に押されていく。

傭兵団長はやむなく騎士団の本部に直訴し、当然の結果として左遷の憂き目を見たが、
騎士団は輜重部隊にも戦闘要員を増員する事を決定し、ようやく被害は減少した。
しかし傭兵団は有能な仲間を多数失い、さらに有能な傭兵団長は現地を去った。

結果、黒肌の妖魔一人の活動で、前線から多くの戦闘要員が後方に狩り出される事になり、
騎士団の前線での圧力が弱まり、傭兵団も事実上弱体化し、さらに騎士と傭兵の軋轢を深くした。
これがこれからの妖魔との戦争でどういう影響を投げかけるのか、それは誰にも分からない。

ダークエルフの噂もそこで途絶え、その行方は杳として知れない。
また、遺跡調査や偵察任務で名を上げた旧冒険者ギルドも、一度に声望を失ったのだった。


受付:「…また当分、暇になるな」
    (嘆息して始末書の山を少しずつ片付けている)

事務員:「あら、いつもの事じゃありませんか」
     (余裕の笑顔で応じて)

受付:「そりゃ、そうなんだけどな…」
   (ペンの尻で頭をちょっとかき、息をつくと再び作業に戻る)

…旧冒険者ギルドに来る春は、遅そうだった。

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