天聖暦1048年星輝の月 翡翠の森
一行は、緑の海といっても差し支えない翡翠の森を進む。
風景の奇妙さは相変わらずだが、これでも森の端の方なのだという。
ヴェガ:(神秘的な景色にも些か飽きてきたのか思わず嘆息)
「やれやれだぜ・・・・」トール:「いい加減飽きてきたわねえ…」 (ヴェガの様子に、周囲を眺めて)
リリィ:(歩きながら幾度か両者の間に無表情な視線を行き来させる)
「…。…」 しばらく見ていると、微妙にヴェガの方が距離をとっているように見える。
リリィ:「…協力した方が、いいの?」 (陶鈴のような声でぽつりととんでもないことを聞く)
トール:「…ううん。正々堂々、勝負よ…!」 (決意のこもった瞳で見返す)
リリィ:(解った、と小さく頷く)
視線が合ったが、火花は散らなかっただろう。
クーガ:「言葉では同じ『森』だが、紅の森とはえらく違う雰囲気なんだよな…
よほど特殊な言われでもあるのか?」 (リラの後を続き、ふと思った疑問をリラにぶつけてみる)
リラ:「いわれかあ、うーん…絶対入っちゃいけない場所とかも一杯あるし、
私が知っているのも、森全体でいえばほんのごくごく一部なんだ。
プルミエールの村の人たちなら何か知ってると思うんだけど…」 (それほど気にした事はないらしく、答えはやや要領を得ない)
時間的には、本来なら馬車で一ヶ月の距離を、徒歩でそのまま来ている計算になる。
それは『翡翠の森の不思議』と一言で片付けるとしても、ペースは早目といえるだろう。
森に慣れたリラは別格としても、慣れない長期間の行軍に足を気にかける者もいる。
ヴェガ:(時折横を歩く女性メンバーの様子を確認する)
「・・・・」 ミール:「死神さんたらまーた色目使っちゃって。帰ったらあの子にちくっとかないとだわ。」 (くすくす笑いながら暇つぶしにヴェガをいじってあそぶ。)
トール:「あたしの心配はしてくれないのぉ?」 (巨大な荷物を背負ってしなをつくりつつ)
クーガ:「戦士の体力に合わせるとバカ見るぞ、辛い時は素直に言えよ」 (後続の二人の女性陣に声をかける)
リリィ:(答える必要を感じていないらしく、硬質な沈黙を保つ)
ミール:「あら。サーゲからオフィスコまで七日で走った私をなめないで貰いたいわ。」 (ふふん、と自慢げにない胸を張る。)
リラが既に道半ばであると告げてから、心なしか気温が下がってきたように思われる。
地面には白いものが降り積もるようになり、空も深い灰色の雲に覆われつつある。
ミール:「冷え込んできたわね・・・てか寒っ。私そろそろ寒くて死ぬかも・・・。」 (防寒具を羽織りなおし、やたら寒そうにして歩く。)
やがて、一行は翡翠の森での最後の野営に入ろうとしていた。
巨大な樹木の根の間で、奥には十分な空間があり、ちょっとした室内のようだ。
リリィは焚き火にする小枝などを集めていると、ふと足元に気配を感じる。
見れば、小鳥のようだがリリィが近くにいても逃げる気配もない。
リリィ:「……」 (無言で足元の生き物と見つめ合っている)
小鳥は羽でも傷つけたのか食べ物を得損ねたのか、力なくリリィの方を見上げている。
リリィ:「…。…」 (求められるまま手を伸ばしてすくい上げると、キャンプの方へと戻っていく )
今日も珍しい森の幸が採れたようで、鍋からはいい匂いが漂っている。
小鳥を手に乗せてやってくるリリィに、リラがその手の内を覗き込む。
リラ:「あれ、珍しいね…その鳥、今頃はもっと南に移動してる筈なんだけど」
リリィ:「…」 (開いた口に自分の食事を与えている)
小鳥は数口で満足したらしく、チチッと鳴いて軽く周囲を跳ねている。
やがて、シフトに従った夜警の時間となる。
この一月の間、翡翠の森にありながら特に何事もなく過ぎたのは、奇跡に近い事態だったろう。
もっとも、最大の敵は常に味方にいるという穿った見方も世の中にはあるにはある。
ヴェガ:「さて・・・寝るか・・」 (そう言ってメンバーの眠る位置を確認し、トールと距離を取るように位置取り毛布に包まる)
リリィ:「…ふ…」 (寒いらしく毛布にくるまった上で、また人にくっついて寝ている)
今回くっついて寝ているのはトールなのだが、不思議と危険な感じはない。
表では、焚き火を囲んでクーガとリラが見張りをしている。
クーガ:「つまらん旅につき合わせて悪かったな、茸狩りの面子は元気でやってるよ
レンは町中走り回ってるだろうし、アーキスとマリアは今頃、遺跡に潜っているだろうな」 (リラとの当番での何気ない会話を続ける)
リラ:「そっかあ、皆元気なんだね。また会いたいなあ」 (にこにことして話を聴いている)
クーガ:「森を抜けたらガイド役も終わりだな、リラが居なかったら此処を抜けるとは
考えられなかった。ありがとな。此処までの苦労を考えれば…大人数での
このルートの移動は無理だろうね?」 (暗闇の奇妙な森を見据えて言葉をかける)
リラ:「あんまり大勢だと、森の生き物達を刺激しちゃうから…去年、妖魔が一杯森に入ってきてね。
森も大騒ぎになって凄かったよ、結局ほとんどは魔獣達に食べられちゃったみたいだけど…
それと、帰りも森を使ってね。…絶対に帰ってこないと駄目なんだよ」 (視線を落として、小枝を折り焚き火に投げ入れる)
森の夜は静かに更けていく。
時折聞こえる獣の遠吠えや奇妙な物音も、今ではすっかり慣れっこだろう。
クーガ:「湯でも沸かしておくか・・・俺とリラの分な、寝るとき水袋に入れれば湯たんぽになる。」 (焚き火に鍋をかけて雪をつめて沸かしておく)
リラ:「うん、ありがと。クーガさんは色んな事知ってるね」 (水袋の中身を空けながら)
やがて交代の時刻となる。
二人は湯を水袋に詰めると、交代を告げに簡易休憩所に向かう。
クーガ:「随分と冷え込むな・・・」 (防寒具を着込み、水袋へ鍋の湯を詰めて抱きかかえて、更に上に毛布に包まってテントの中へ)
リリィ:(夢でも見たのか珍しく自力で起きたらしい。きちんと仮面をし、黒髪を編んで身支度している)
支度の済んでいないヴェガを起こすと、夜警交代となる。
夜半を過ぎ、寒さもいよいよ増してくる。朝方には耐え難い寒さとなる事だろう。
ヴェガ:「さすがにさみぃな・・・・」 (目の前の炎を眺めながら、酒袋の中身を僅かに口へ運び喉の焼ける感触を味合う)
リリィ:(休憩時、鉄笛を取り出し胸の前で繊指を当てて孔を塞いだり解放したりと音を出さない練習)
焚き木の燃える音、はぜる音が周囲の音を支配している。
ヴェガ:「・・・・」 (鋭い漆黒の双瞳を共に見張りを行うリリィに向け、観察する )
<この嬢ちゃんは・・・一体何を考えてんのかねぇ・・・>リリィ:「…」 (精巧に造られた古い陶製人形のような姿を月下に晒し、異変がないかと仮面の視線を虚空へ投げている)
三番目であるミールとトールの夜警を経て、何事もなく最後の夜も明けた。
朝食を済ませ、しばらく歩くと、その森の終わりを告げる光景は唐突に眼前に広がった。
白々とした雪の広野が目の前に広がり、行く手には丘や林が見える。
その寒々しい風景にほぼ全員が悟った事だろう、まさにこれからが本番なのだと…
クーガ:「此処から更に100キロか…ちと後悔してるぞ」 (見えた風景に唖然としている)
ミール:「雪か・・・寒いわけだわ。毛皮が欲しいとこだけどコレじゃ逆に目立つもんね・・・。」 (たまに見える雪景色を見て、震えながら小声でぶつぶつ呟いている。)
ヴェガ:(目の前に広がる銀世界に思わず目を細め、東の方角に視線を向ける)
「懐かしいねぇ・・・・・」
<やっと・・・ここまで近づいたか・・>
リリィ:(もこもこの防寒具に腕を通して裏表をひっくり返している)
トール:「いよいよね…」 (雪の白さに目を細め、表情を引き締める)
ここから先はガイドもなく、頼りは地図と己の才覚だけとなる。
一行はラングレイ周辺地図を広げ、ルートについて話合う。
クーガ:「現時点はどの変になるかね?方角は?」 (コンパス、スケッチ、地図で現時点を確認。進行ルートを模索する)
現在地は(O-11 ※下記地図参照)であると判明する。
クーガ:「周囲を観察してからルートを考えるか・・・何か見えるかな?」 (地図を見ながら望遠鏡を覗き、確認した地形を照らし合わせて進行ルートを決めていく)
ミール:「この雪のなか身を隠しながら進むとか・・・憂鬱だわあ。ああ、あったかいシチューが食べたい・・・。」 (地図を見て進行ルートを模索しながら、なんか色々ぼやいている。)
ヴェガ:(クーガと共にスケッチを覗き込みラングレイ周辺の地形を確認)
「ラングレイ近くの丘か何か見下ろせるような場所まで行けりゃあ、
城壁の中まで観察できると思うんだがよ・・・」望遠鏡での目視と地図を照らし合わせても、ほとんど遜色ないことが分かる。
クーガ:「なるべく身が隠せるルートは?あと、見渡せるポイントはこのあの辺りか?」 (地図をなぞりながら、皆で相談)
ヴェガ:(辺りの地形を望遠鏡で確認し、敵影の確認と進行にあたっての考察をしながらメモを取る)
「・・・・」
<さて・・・どの辺なら陣取れる・・?> ミール:「まあとりあえず身を隠しながら行く方が重要よね。この辺?」 (林の方など身を隠しながら行けるルートを探す。)
リリィ:「…」 (無言のまま、重要ポイントと思われる地図の一点を指さす)
話し合いの結果、方針が固まり、一行はいよいよ森を後にする。
リリィは懐に動くものに気付くと、一行の元を少し離れた。
リリィ:「さようなら」 (キャンプから少し離れた場所に行き、感情の凍った口調と優しげな手つきで解放してやる)
白い繊手を離れた小鳥は、力強く羽ばたいてゆっくりと頭上を周回した後、南へ向けて飛び去っていった…