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偵察任務

偵察任務(第一話)

天聖暦1047年 天静の月 旧冒険者ギルド

「・・・ここが旧冒険者ギルドか」
粗末な麻服の上から、使い古された厚手の外套を身に纏った男が、ギルドの前に立っていた。
見上げるような巨漢で、黒髪は短めにして、カーキ色のバンダナを鉢巻のように巻き締めている。
時折ひるがえる外套の裾からは、やはり使い古されて色褪せた手斧が見え隠れしていた。

「・・・。やってるのか、ここ?」
扉を開いて中に入った男は正直な感想を述べ、それに応じるように奥から声が響いた。
「年中無休で営業中だよ。・・・依頼を受けに来た冒険者かい?」
「いや、失礼。・・・依頼人だ」

男は靴音を鳴らしながら、ゆっくりと奥のカウンターに歩き出した。

次の日、依頼用の掲示板に白い紙が貼り付けられていた。
表にも裏にも何も記入されておらず、逆に目立っていたかもしれない。
それは、冒険者としての登録を受けた際、受付が最後に言っていた言葉を想起させたかもしれない・・・

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偵察任務(第二話)

天聖暦1048年 銀光の月 旧冒険者ギルド

募集期日、依頼を受け旧冒険者ギルドを訪れた冒険者達に、受付は出発日時を告げた。

受付:「出発は明日早朝、集合は南地区馬車乗り場。そこで依頼代理人が待っている。
    任務参加の最終メンバーは、ヴェガ、クーガ、ミール、リリィ、トールの5名だ。
    …困難な任務だとは思うが、自分と仲間の命を最優先に頑張ってきてくれ」

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偵察任務(第三話)

天聖暦1048年 銀光の月 馬車乗り場

陽もまだ地平から昇りきらない早朝、集合場所である南地区の馬車乗り場。
幾つもの街道が妖魔軍の手によって壊滅したものの、そこにまだ活気は残っていた。

何台かの馬車が、開いたばかりの市門の向こうへ姿を消す頃…
遠い北東の地への偵察任務依頼を受けた冒険者達が三々五々、姿を現す。
少し馬車乗り場内に視線をめぐらせれば、一行を待つジョンの大柄な姿が見えるだろう。

ヴェガ:(まだひっそりとした街中、妖しげに輝く大鎌を手に ゆらりと現れる白い息を吐く)
     「フゥ・・・」
    <さすがに寒ぃな・・・>


ミール:「ハーイ。やっぱ朝早いと寒いわね・・・」
    (上着の襟を閉じながら寒そうにしながら現れる黒髪の女。)

クーガ:「うっす、相変わらず寒いな…こんな日は暖炉の前でのんびりしてるのが
     一番だが…仕事だしな、よろしく頼む。」

    (防寒具を着て登場、テキトーな挨拶をしつつ、面子の顔を確認)

ジョン:「ん、集まってきたな。後2人か?」
    (視線をめぐらして)

やがて、広場にジョンとその体格を比較しても全く遜色のない巨漢が姿を現した。

トール:「あら、遅れちゃったかしら?・・・あ、ヴェガちゃーん!」
    (背に長大な曲剣を背負った、筋骨隆々たる大男が歩いて来て、ヴェガの姿を見ると手を振る)

次いで、それと対照的にローブ姿の小さな影が広場にはいってくる。
しばらく周囲を見るようにしていたが、やがてそれと目星をつけたのか近づいてくる。

リリィ:(ヴァイオリンケースを両手で抱え、黒が色褪せた暗灰色のローブに身を包む旅装。
     人の視線を避けるように目深く下げたフードで目許を影にし、
     メンバーから若干の距離を置いて立ち止まる)

ジョン:「ええと…残る一人。あんたが、そうみたいだな」
    (手元のファイルをめくってリリィの姿形と見比べる)

ヴェガ:(唯一初見のリリィの元へ向かい見下ろすように見据え、その纏う雰囲気に目を細める)
    「俺はヴェガだ・・・。嬢ちゃん・・名はなんてんだ?」
   <ギルドの目は節穴・・・じゃねえようだな・・>


リリィ:(僅かに頷き、薄氷にも似た成長期にある少女特有の高く澄んだ声を響 かせる )
    「…リリィ=リル」

ミール:「ミールよ。まあ・・・それなりによろしく。」
    (簡潔に自分の名前だけを告げる。)

クーガ:「クーガ=アディール、クーガと呼んでくれ。よろしく頼むよ…
     お前らには自己紹介はいらんだろ?」

    (初見?のリリィとトールに名を告げ軽く自己紹介、後半はミールとヴェガへの言葉)

トール:「あたしはトールよ、よろしくね。FFGで傭兵やってるわ。
     あら、こちらいい男ねえ・・・『咎人の剣士』さんだったかしら?
     ・・・うーん、いいセンいってるわ。でもヴェガちゃんにはまだまだ敵わないわね♪」

     (舐めるように上から下まで見やると、ウィンクしてチッチッと指を振る)

ヴェガ:(集まって来た面子を鋭い漆黒の双瞳で見渡し)
    「今回はなかなかヘヴィだろうが・・・ま、よろしく頼むぜ・ ・・」

リリィ:「よろしく…」
    (平坦な口調でオウム返しに答える)

簡単な自己紹介が済んだのを見計らって、ジョンが馬車を引いて近づいてくる。

ジョン:「これが今回使う馬車だ。馬は辛抱強い種だが、無理しすぎないよう気をつけてやってくれ」
    (馬の首筋をぽんぽんと叩く)

クーガ:「しばらくはコイツが我が家か…どれどれぇ」
    (馬車の周りをグルリと回り、時にはしゃがみ込み。馬車に異常がないか点検)

使い込まれているが、整備はきちんとされているようだ。特に異常は見当たらない。

クーガ:「よ〜う道中よろしく頼むぜ〜、こいつ等の名前ってあるのか?」
    (馬とスキンシップしながら健康状態を確認、自分に慣れさせておく)

ジョン:「いや、見たままだ…こいつは葦毛君、そっちは栗毛君と呼ばれてる」

ミール:「よし、今日からよろしくね。」

    (言いながら馬たちの首を撫でてやる)

ジョンは後ろの荷台に回ると、それぞれの物品の場所についてまず説明する。

クーガ:「積荷は…食料に、水、酒もあるな。用意してもらった物も…一通りある。
     おっ、防寒具は特注品かよ助かる。」

    (積んである荷物を一通り確認しておく)

ヴェガ:(積荷を特殊な物、保存食や灯りなどの必需品含め
     人数・日数等踏まえ不足等ないか念入りにチェック)
    「備え有れば・・・憂いなしか・・・」

次いで、ジョンはその品の中から幾つかを取り出す。

ジョン:「んじゃ、取り扱いの特殊な品について説明するぞ。
     まずは望遠鏡だな、ここから覗いてこっちを見たいほうに向ける。
     で、ここが伸び縮みするから調整して画像を合わせる」

    (長い筒を取り出し、伸び縮みさせながら説明する)

ミール:「私望遠鏡って使うの初めてなのよねぇ。ちょっとこれ覗いてみて良い?
     うわっなにこ・・あ、コレあそこか?」

    (うわすっげ!とか言いながら望遠鏡を覗いて遊んでいる。)

クーガ:「望遠鏡は…そういや、ジャイロコンパスって道具屋に無かったよな?
     俺も個人で欲しいんだが、今度売ってる店教えてよ。」

     (望遠鏡等の使い方のレクチャーを受ける)

ジョン:「ジャイロコンパスはこの前、どっかの掘り出し物で売ってたな」
    (どこだったかは覚えてないが、と首をひねって)

とりあえず幾つかの品について、一行は説明を受けた。

ヴェガ:(実際に手に取りながらジョンのレクチャーを受ける )
    「なるほどねぇ・・・」
   <イザってときに使えねぇんじゃ、話になんねぇからな・・・ >


ジョン:「まあ、こんなところだな。後は感覚的に使っていける品ばかりだしな。
     そうそう、言われてたハーピーの生態についてのレポートだ。
     んで、こいつを・・・リラに頼む」

    (レポートと小包をクーガに託す)

クーガ:「ハーピィーには一度痛い目あってるから・・・了解、こいつを渡せばいいのね。」
    (塾長の話を聞きつつ小包を受け取り、確認。)

ジョン:「ああ。手紙も入ってるから、その場で読むように言ってくれ」

その言葉を合図に、冒険者達は続々と馬車に乗り込み始める。
リリィはしばらく冒険者達を見ていたが、やがてクーガを見定めて声を掛ける。

リリィ:「…私のことは道具と思って。…必要な時、命令してくれればいい」
    (落ち着いた、しかし感情の籠もらない声で涼しく告げて歩き出す)

やがて全員が乗り込み、最初の手綱はクーガが握った。

クーガ:「さて、慣らしがてらのんびり行くかね…」
     (自分の席に毛布を畳んでクッションにして座り。手綱を握る)

リリィ:(身を壁面に預けヴァイオリンケースと自分の荷物とを傍らにして、大人しく座り込んでいる)

クーガ:「んでは、行ってきます。出すぞ〜」
    (塾長に挨拶。後ろに居るだろう面々に合図を出しゆっくりと出発)

ジョン:「ああ、しつこく言うが、必ず生きて帰って来い。決して無理はするなよ」

ジョンの見送りを受けて、馬車はゆっくりと走り出す。
やがて、一行の乗った馬車は市門をゆっくりと抜け、街道に乗った。


天聖暦1048年銀光の月 街道

一行を乗せた馬車は、順調に街道を進んでいる。
時折すれ違うのは、冒険者を満載した馬車で、恐らく遺跡調査帰りなのだろう。

クーガ:「・・・・・・あ〜、道は間違いないだろ?こんな感じはどうよ?」
    (手綱を握りつつ案内役のメンバーに確認、時折、手綱を調整して馬車の操作を慣らしておく。)

トール:「まあ、しばらくは道なりですもの。…あらあら、そんなに手荒にしちゃダメよ?」
    (もっと優しく、と時折囁くように注文しながら)

クーガ:「そう言えばトールは前の強行偵察にも参加したんだってな?
     其のときの事、詳しく聞かせてもらえるか?不意打ちの状況とか
     その前後の辺りをだ」

    (トールより、前作戦の内容を詳しく聞きだそうと話しかける。)

トール:「ええ、…あの時はひどい負け戦だったわねえ。
     夜襲よ。もちろんあたし達も厳重な警戒をしていたのだけれど、
     最初の敵襲の声が上がったのは随分遅かったわね。
     後で分かったんだけど、まず警邏の部隊がダークエルフに壊滅させられてたの。
     巡回から戻ってこない事を不審に思い始めた頃には、既に敵は翡翠の森から
     現れて、うちらの部隊に肉薄していたわけ。完全に不意をつかれたわ。
     まだ500kmと離れていたこともあって、油断もあったんでしょうね。
     ただでさえ蜂の巣をつついたような有様なのに、収集をつけようとする
     指揮官は次々にダークエルフに殺られる始末で・・・
     そりゃ簡単に肉薄できるような状態だったわけなのよ。
     結局当たり前の結果として壊走したんだけど、既に背後に飛行部隊が回っててね。
     食い止められてる内に、背後からは敵の増援が次々とやってくるの。
     生きた心地がしなかったわ。何とか逃げ延びて後方で部隊をまとめた時、
     戦争で負けたときより数が少なくなってたのよ。何倍も、何倍もよ・・・」

    (言い終えると、厳しい表情をしてぐっと歯を噛み締める)

その日によって、御者を交代しながら馬車は目的地へ進んでいく。
街道の周囲の光景は、さすがに冬枯れで見るだに寒々しい。

ヴェガ:(御者台に座れば大鎌を傍らに置き、手綱を握る)
    「さて・・・、行くぜ・・・」

ミール:「翡翠の森って確か、なんか昔えらい怖いとこだって聞いた覚えがあるんだけど・・・」
    (うーんとか唸りながら進む先をながめている。)

リリィ:(ヴァイオリンケースを抱きしめ唇を閉ざしたまま、流れる風景をじっと眺め ている)

ミール:「こう寒いと外に出るのも億劫よねぇ。妖魔もそうだと良いんだけど。 面倒もないし。」
    (楽観的な希望を口にしながらあたりを警戒して進む。)

ヴェガ:(手綱を握りながら目を細めながら時折左右も確認)
     「・・・」
    <このまま道中静かに進めりゃいいんだがな・・・>


クーガ:「なぁ?馬車に乗ると思い出す歌が『ドナドナ』ぐらいしか無いのは
     どうかと思うのだが…」

    (軽く雑談を交えつつメンバーとの交流をはかっておく)

リリィ:(少しだけ不思議そうに首をかしげ、無機質な仮面の視線を向ける)

時折宿場町などでの休憩を挟みながら、馬車は翡翠の森へ向けて走り続ける。

ヴェガ:(馬車内で地図スケッチを眺めながら、翡翠の森以降のルートを
     ジョンに薦められたルートを基本に数パターン想定してイメージを行う)
     「・・・・」
    <こればっかりは・・・実際見てみねえことにはな・・>


クーガ:「リオンで奪還戦してた頃な、あそこ住民が増える度に居住区を
     増やして行くもんだから、街自体がデカイ迷路みたいになってるのよ。
     それで、陥落後は、レジスタンスは地下にもぐって、地下道を使って
     ゲリラ的に攻撃してたわけだが・・・街自体が迷路って事もあって
     妖魔軍は街の中では戦力が分散するわけだ・・・
     だからゲリラ戦術でしばらく乗り越えられたんだが、何度目かの大規模
     襲撃時に、一直線に大部隊が食料庫を目指して来るんだよ。
     なんで?と思ったら上空をハーピィが飛んで案内しててな…ありゃ参った。
    さすがに物量で押されては敵わんって、決死の戦闘をしてた時に
    ルデュの率いるヴェルヘルム傭兵団が駆けつけてな、瀕死の所を
    助けられた。俺がやたらハーピィの存在を気に欠ける理由と、少しでも
    ルデュに借りを返したいってのが俺の今回の参加理由よ」

    (雑談交じりに自分の体験談を話す)

トール:「ヴィルヘルム傭兵団の噂は聞いてるわ。英雄の娘、だっけ・・・
     世が世なら、お姫様みたいな存在なのにね。・・・想像はつかないけど」


リリィ:「…」
    (人形を抱くような仕草でヴァイオリンケースを抱え、微笑むことのない唇を閉ざしたまま、
     周囲で交わされる会話に耳を傾けている)

一行を乗せた馬車は、やがて間道に入り、翡翠の森目指して北上を始めた…

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偵察任務(第四話)

ある日、途中で立ち寄った宿場町のひとつで、一行は夜を迎えていた。
しかし宿はほとんどが冒険者ギルドに借り上げられており、残った宿も旅人が満載で、
一行は柔らかなベッドでの睡眠を断念し、馬車内で雑魚寝する事となった。
ただ、外敵襲来の恐れが少ない、というのだけが救いだった。

―夜も更け、そらに満天の星がきらめき、月が天高く上った頃…
馬車内に寝息が響く中、ひとりの巨漢が半身を起こして馬車の外を眺めていた。

少し離れた所でやすんでいた小さな影は、それに気が付いたのか、静かに身を起こす。

リリィ:「ん…」
    (よいしょと人を乗り越えて傍らにたどり着くと、毛布越しに存在が感じられるほど近くに座り込む)

トール:「…あら?」
    (気付き、視線を向け小さく驚きの声を発する)

リリィ:「…眠れないの」
    (ヴァイオリンケースを傍らに置き、膝を抱えるようにする)

トールはその問いかけに、しばらく言い澱んでいたが、やがて口を開いた。

トール:「…昼間に、あの話をしてる内に色々思い出しちゃってね」
     (言いながら、視線を再び馬車の外に向ける)

街の中は静けさに満ち、月と星の光に蒼く浮かび上がって見える。

トール:「敗軍行はもっと辛かったわ。この街でも、何人もの仲間を看取った…
     生きて、故郷の地を踏みたかったでしょうに。慣れないわ…
     こればっかりは、何年と傭兵をやっていても、ね」


リリィ:「…子守歌が要る?」
    (硬質な横顔を見せ、感情の感じられない、優しくも冷たくも聞こえる静かな口調で囁く)

トール:「子守歌?」

トールはリリィに不思議そうな視線を向けたが、やがて表情を和らげた。

トール:「…そうね。お願いできるかしら…不思議な娘ね、あなた」
    (言うと、静かに目を閉じる)

リリィ:「…」
    (立てた人差し指を唇に添えて見せるが、それを下ろすとすぐ側でなければ聞こえない、
    他のメンバーには気づかれないほどの小声が単調な子守歌を囁き出す 。
    吐息は誰もが聞き覚えのある懐かしい歌となって空気に解けていく)

トール:<アシェッド、ギグス…あたしの身体を通して聴きなさい…そして安らかに…>

―やがて歌が終わる頃、巨漢からも静かな寝息が聞こえ始めた。

リリィ:「…」
    (様子を伺うように顔を向けているが、しばらくすると眠くなったのか
    目を擦るような動作をして横になる。子供が甘えるように額をくっつけて静かに眠り出す)

夜はいよいよ更け、月明かりが煌々と街に降り注ぎ、馬車内を蒼く照らし出していた…

天聖暦1048年 銀光の月 翡翠の森への間道

街道を外れ、一行は翡翠の森への間道を進み始める。
周囲の風景も、益々人の手の入らぬ荒れたものとなってきた。

ヴェガ:(大鎌を手に立ち上がり御者台へ向かいクーガに声を かける)
    「代わるぜ・・・、そろそろ俺の番だろ・・・?」

一行は寒風厳しい御者の番を交代しながら、着実に進んでいく。

クーガ:「そう言えば、夜営のシフトとチームリーダーが決まってなかったな…
     異論が無いなら俺がするか、さて面子は5人・・・途中リラが入って6人・・・
     長旅だから2交代じゃキツかろう。3交代、1シフト3時間って所か」

     (交代で手綱を握りながら馬車の中での会話)

ミール:「あ、私は何でも良いから適当に決めて良いわよ。そゆの考えるの苦手だし。」
    (丸投げした。)

クーガ:「夜営チームは『戦士+バックアップで1チーム』としよう。
     顔見知りって事でリラと俺は組むから、リラが来るまで俺はピンだな
     これをA班とする。ヴェガをB班、トールをC班とする。バックアップ組はそれぞれ
     誰が組むか決めてくれや」

      (面々を見回し、シフト編成)

トール:「あらぁ、じゃあヴェガちゃんとは組めないのねぇ・・・残念だわあ」
     (心底残念そうな表情、かつ悔しそうな口調で)

ヴェガ:「じゃあ、俺は嬢ちゃんと組むぜ・・・。文句ねぇだろ・・・?」
     (リリィに漆黒の双瞳を向け言葉を発すれば、メンバーを見渡す )

リリィ:(異論は無いと頷きで了承の意を伝える)

トール:「んもう、ヴェガちゃんたら…じゃあ、あたしはミールとね。よろしくね」
     (ヴェガをジト目で見やると)

クーガ:「チームが出来たら、それぞれをABCとして、大体3時間ぐらいを目処に
     交代していく。担当する時間は日ごとに変更、つまり
     ABC→BCA→CABといった具合にだな」

     (指でクルクルと縁を描きながら説明)

こうしてリーダーもクーガと決まり、夜営のシフトも決まった。
やがて日は進み、地形によってはうっすらと地平に緑が見えるようになってきた。

クーガ:「ミール!タコ糸と鳴子を用意してもらったから、夜営準備の再はこれでトラップ頼むよ」
    (道中で夜営があれば、準備の段階で警戒用トラップの作成依頼をミールへ頼む。)

ミール:「今のうちに適当に作っとくかあ。」
     (めんどくさそうに荷の罠類の点検やら改良やらを始める。)

必要最低限、とはいっても中々の量である。
全てを製作するまでにはしばらくかかるだろう。

クーガ:「そう言えば、レポート忘れてたわ…」
    (てすきの時間に荷物の中からハーピーに関するレポートに目を通しておく)

最初のページに「ハーピーに知り合いが居ないので本当かどうかは分からないが」と、
前置きしてあるのが気になるが、ざっと目を通すと以下のような事が分かった。
・航続距離は全力で1時間程度らしい。
・滑空を加えれば滞空時間はさらに延びるらしい。
・ハーピー族の伝説に、無着陸大陸縦断の英雄がいるらしい。
・体型的に、鳥のように自由自在という訳にはいかないようだ。
・速度は風に乗った滑空で50km/時は出るらしい。
・巡航速度(羽ばたき)は30km/時は普通らしい。
・条件の整った急降下では80km/時は固いらしい。
・鳥人と同じように、鳥目らしい。夜間は仕方なく歩くらしい。


いよいよ、翡翠の森到着予定の日となった。
間道の周囲にも緑やその痕跡が目立ち始め、森独特の空気が流れはじめる。

リリィ:「…」
    (防寒具に半ば埋もれるようにして両手で手綱を持ち御者台に座っている)

ヴェガ:(望遠鏡で辺りを見渡し、紙とペンを取り書き込んで いく)
     「・・・・・」

やがて、丘をひとつ超えると望遠鏡の視界が緑に染まった。
望遠鏡を外しても森は視界一杯に広がり、その広さと深さがそれだけで想像できる。

ヴェガ:(翡翠の森が視界に入れば、漆黒の双瞳を細めつつ警戒を強める)
    「翡翠の森か・・・、相変わらず不気味だぜ・・・」

リリィ:「ゆりかごなりし翡翠の森…」
    (吹く強風に呟きがかき消され、フードが払いのけられる。
    細い艶束の幾筋かを遊ばせ仮面の視線を森へ向ける)

リリィはヴェガの示す地図にしたがい、間道からさらに細い道へ入る。
この道はまっすぐ森へと向かっており、やがて少し開けたところで終わった。
既に目の前は、昼なお暗い『翡翠の森』である。

クーガ:「さて、リラはどこかね」
     (ついた早々、目的の人物を探し始める)

ミール:「とりあえず先に行くけど、私野伏じゃあないからあんまり期待しないでね?」
     (くすくす笑いながら先頭を行く。)

入ってしばらくは林のようになっていて、木々のスペースも広い。
だが少し奥をみると、さっそく鬱蒼としており本能的な危機すら感じる。

ミール:「森ってどうも苦手なのよねえ・・・足元ごちゃごちゃしてるし。あんなん誰だってコケるわよ・・・。」
     (ぶつくさ言いながら周囲を警戒しながら進む。なんか良くない思い出があるらしい。)

しばらくその近辺で探していると、ふとリリィの視界に動くものが目に入った。

リリィ:「?…」
    (視界に捕らえた影を追って顔を上げ、風に流れる髪を押さえる動作と共に無表情な視線を流す)

森の風景にも見えたその影は、どうやら徐々に近づいてくる人影のようだった。
見ているうちに、やがて一行の前に軽快な動作で一人の少女が走りこんできた。
鮮やかな金の短髪を冬枯れ色のバンダナで包んで、身には動きやすい革鎧を着込んでいる。
冬仕様なのか、保温性の高そうなふかふかな毛のついた革鎧である。

少女:「あ、久しぶり!」
    (クーガの姿を認めると、駆け寄ってくる)

クーガ:「お久しぶり、これが塾長から預かり物。手紙はその場で読んでくれってさ」
    (挨拶もテキトーにリラへ小包を渡す)

少女は頷いて小包を受け取ると、早速開いて中身を見ている。
しばらく似つかわしくない小難しい表情をしていたが、息をつくとそれを懐に仕舞う。

クーガ:「俺の事は忘れてないよな?『クーガ』だ
    鎌持ったのが『ヴェガ』、そっちが『トール』、次いで『ミール』に
    ヴァイオリン持ったのが『リリィ』。んで馬の『葦毛君と栗毛君』
    彼女が噂の狩人『リラ』だ。」

     (リラに面子を、面子にリラを紹介する。)

リラ:「狩人のリラです。よろしくお願いします」
   (一人一人の紹介に頷いて、ぺこりと一礼する)

ヴェガ:(少女を漆黒の双瞳でどこか値踏みするように眺めた後フッと僅かに笑みを浮かべる)
    「俺は・・・ヴェガだ・・・。道中よろしくな・・・」

リリィ:「…」
    (人見知りをしているらしく、身を小さくして会釈のみ)

トール:「トールよ。よろしくね」

一通り挨拶が済むと、冒険者達は早速森の侵入準備にかかる。

クーガ:「翡翠の森に入るのは久々なんだが、注意事項があるなら今のうちに頼むよ」
    (リラに森での注意事項等が無いか確認。)

リラ:「うん…そうだね、この森は結構理屈じゃ通らない所もあって…
   説明しにくいんだけど、この先変に思える案内も一杯すると思う。
   でも、間違いなく目的地まで連れて行くから、信じて欲しいんだ」

   (納得してもらえるか不安なのか、なんとも説明しにくそうに歯切れ悪く言う)

クーガ:「夜営は俺と組む事になってるからよろしく。それとボウガンの扱いを教えてくれない?」
    (荷物にあるボウガンを指し、師事を仰ぐ)

ミール:「そうだ、これの使い方教えて欲しいんだけど。なんか狙ったとこに飛ぶコツとかそんなん。」
    (荷からボウガンを取り出し、リラに教えを乞う。)

リラ:「うん、いいよ。…へえ、最近のは軽いんだねえ」
   (ボウガンを手にとって色々触っている)

クーガ:「本格的に狩人を目指すわけでないけど…基礎ぐらいは覚えたいね。
    手段を多くしておきたいのさ。」

    (ボウガンを構え、木の幹を的に訓練)

リラ:「動かない的に当てるくらいなら、練習すればそこそこ出来るよ。
    矢の装填はこうして、構え方はこう。…そうそう、そんな感じ。
    で、この先についてるこれに的を合わせて、レバーを引く」


ヴェガ:(ボウガンを構え手近な大きめの的に向かって狙い打つ)
    「ま・・・、慣れたもんじゃねえし、こんなもんか・・・」

リラ:「うーん、もうちょっと力を抜いた方がいいかもね。
    …あ、リリィさんもやってみる?」


リリィはしばらく渡されたものを触っていたが、やがて動きが止まった。

リリィ:「…。…」
    (指先を切ったらしく、少し俯いて右の中指を唇にくわえている)

リラ:「わっ、だ、大丈夫!?」
   (慌てて何やら処置し始める)

リリィ:「…」
    (なすがまま。特に抵抗する気もないらしい)

そうこうしている間に、荷下ろしや荷造りなどの作業も進んでいく。

リリィ:「…」
    (鉄笛をローブの内側に納め、ヴァイオリンケースは馬車に残して外へ )

ミール:「森での野営って何度か経験あるけどさあ、罠の種類とかも外とは勝手が違うじゃない?
     そんで毎回テキトーだったから、一回専門家に聞いときたかったのよねー。」

     (リラに森の中用の罠の張り方を教えろと言っているようだ。)

リラ:「うーん、多分考え方は一緒だよ。周囲の風景になじませる事が大事かな。
   あるいは、中途半端なものを仕掛けて注意を引いて、その逆をつくとか。
   足元を狙うものなら枯葉に隠したり、とにかく違和感を感じさせない工夫だね」

   (考えながら答える)

そうこうしている内に陽も西に傾き始め、出発は明日早朝という事になった。
一行は保存食による夕食を終え、やがて夜営に入る。

ヴェガ:(見張りに入るクーガの肩を軽く叩き)
    「しっかりな・・・。酒場で言ってたこと・・・忘れんなよ・ ・・」

まずは順番に従いAチームからで、他のチームは眠りに入る。

リリィ:(仮面は外し、毛布と防寒具に頭までくるまって芋虫状態で眠っている )

ヴェガ:(大鎌の柄を抱きながらほとんど物音を立てず静かに 目を閉じ身体を休める)
    「・・・・・・」

リリィ:「…ん」
    (指先に触れたものをそっと握り、柔らかな頬を寄せて枕にしてしまう 。
    付けたままの仮面が少し浮いて柳眉が覗くものの、起きる気配はゼロ)

今日の枕は、ミールの腕だったようだ。

やがて時間が過ぎ、Bチームの順番となる。

ヴェガ:(大鎌の柄を抱き辺りを警戒しつつ、焚き火の光を刃に反射させながら、ただただ眺める)
    「・・・・」
   <やっと・・・近づいてきたぜ・・・>


森が近いせいか、冬場でありながらそれほど寒さは感じない。
といっても、それほど、という程度で、焚き火はやはり必須ではある。

ヴェガ:「なあ・・・。なんで・・・この仕事を請ける気になった・・・?」
    (低い声でぶっきらぼうに言葉を投げかける)
    <ガラじゃねえ・・・ように見えるがよ・・・>

リリィ:「…」
    (ひたすら無言)

ヴェガ:「フゥ・・・・」
    (相手の無反応っぷりに肩を竦める)
   <やれやれだぜ・・・・>

やがて、何事も無く夜が明けた。

リラは早朝から起き出し、見慣れぬ服装の人物と会話している。
聞けば、彼は翡翠の森に隣接しているプルミエールの村の住人で、
一行の乗ってきた馬車を預かってくれるよう話がついているのだという。

そして、準備の整った一行はいよいよ翡翠の森へと歩を進める。

ヴェガ:「じゃあ、案内頼むわ・・・・」
    (妖しげに輝く大鎌を手にゆらりと歩み始める)

一行の姿は、翡翠色の闇に呑まれ、すぐ掻き消すように見えなくなった…

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偵察任務(第五話)

天聖暦1048年銀光の月 翡翠の森前

一行は最初の目的地である翡翠の森に到着した。
一晩の休息の後、いよいよ森へ侵入する為の準備にかかる。

どうやら森の中で馬車は使えないらしく、近くの村人に預かってもらう事となる。

クーガ:「徒歩か…荷物を分けてそれぞれ持っていこう。」
     (行程を考え少々ウンザリとした顔になりつつ、馬車から荷物を降ろし
      小分けにして人間が持てる様にまとめていく)

ミール:「罠はいくらか私が持っとくわね。」
     (言いながら荷物を背負うが明らかに他のメンバーのより少ない。)

ヴェガ:(クーガの指示に従い荷物を纏めれば、自分の分を背負い妖しげに輝く大鎌を手にする)
     「さてさて・・・、どんなんが待ってんだろうねぇ・・・」

ミール:「戦闘とかならなきゃいいけどねー・・・。」
    (言いながら、腰の後ろの白い短剣と、足に巻いたホルダーの短剣とを確認している。)

トール:「こ、こんなに残ったの?全部か弱いあたしに持てって言うのね…」
    (泣き声で言いつつ残った大荷物を軽々背負い、リラとリリィの分まで追加する)

荷分けが終わった一行は、森の中での行動について話し合いを始める。

クーガ:「先頭はリラ、其の後ろに俺、リリィ、ミール。リリィを挟むように、左にヴェガ、
     右にトール。基本の行軍陣形はこれで良いだろ。ミールはバックアタックも警戒頼む」

     (木の枝で地面に逆十字架を描き、パーティ面々の位置を指定。)

ヴェガ:「ああ・・・、それでいいぜ・・・」
     (隊形指示に小さく頷き、言われた通りに位置し歩き出す)

ミール:「殿かあ・・・了解、泥舟に乗ったつもりでいると良いわ。」
     (真面目な顔で冗談をかます。)

クーガ:「森での戦闘するしないの選択はリラに任せる。合図を頼むよ。
     戦闘の際は俺とリラの位置がスイッチする。
     敵が単体の場合なら、接敵時に最も近い戦士を中央に、
     残りの二人が両サイドから『Vの字』で囲んでタコ殴りにする。
     複数の場合は、戦士陣を『壁』として展開し後衛陣を守護する。
     リラは援護射、リリィとミールは戦闘時も、敵の迂回や伏兵に気を使ってくれ。
     あとは各自、臨機応変に。」

    (先ほど書いた『逆十時』に矢印を書き足しフォーメーションの確認。)

リラ:「うん、分かった」
   (神妙な顔つきで頷く)

リリィ:「…」
    (異論はないと沈黙で返答)

ミール:「臨機応変。うん、私が一番得意な行動だわ。」
     (どう見ても「勝手気侭」と勘違いしている頷き方だった。)

一行は打ち合わせを終えると立ち上がり、いよいよ翡翠の森に足を踏み入れた。


天聖暦1048年銀光の月 翡翠の森

翡翠の森は、まだ陽も高く上っている時刻だと言うのに薄暗く、時折夜の様に暗くさえなる。
道はあるようでなく、無いようであり、しばしば鬱蒼とした茂みすら抜けていかねばならない。
それでもリラの足取りは澱みなく、確信に満ちたものである事が後ろから見ていても分かる。

リリィ:「……」
    (体力を気にしているらしく、気を配った足運び)

ミール:「後ろ気にしながら進むのって案外難しいわね・・・」
     (実は殿初体験らしく、妙にきょろきょろしながら周囲を警戒して進む。)

周囲の風景は刻一刻と変わり、通常の森では見られないものも忽然と現れる。

ヴェガ:(辺りの神秘的な風景に嘆息を漏らす)
    「ほぅ・・・・」
   <中は外で見るより物騒な感じはしねぇな・・・・>


クーガ:「しかし…相変わらず変な所だな、以前は喋る黒豹が出て、アークの親戚かと思った。
     フィアは霊樹の餌食になりかけたし・・」

     (荷物を背負って周囲を見回しながら、リラの後に続く)

リリィ:「…。…」
    (言葉の中に知った名があったらしく、少しの間、その背を眺める)

ミール:「げ、ほらやっぱり怖いとこなんじゃないの・・・ああいやだわぁ、いやだわぁ。」
     (クーガの話を聞いてぶつくさ言いながら周囲を見回している。)

道中、リラの指示する場所で休息や睡眠をとりながら、森の奥へ奥へと進んでいく。

その日は、屋根ほどもありそうな巨大な茸の傘の下で夜営を張る事となった。
燐光を放ちながら降り注ぐ胞子が、地に落ちると粉々の砕片となって七色に煌く。
茸の周囲は仄かに暖かく、光量も十分で、焚き火いらずの場所なのだった。

ヴェガ:(自身が見張りの番の際、近くの適当なスペースで大鎌を袈裟・逆袈裟と振るい、
     その後タメを作ってから横薙ぎ)
     「フン・・・・!!」
    <まだだ・・・・、もっとやれる・・・>


野営陣はリラの手によって巧みにカムフラージュされ、離れると戻るときに苦労する程だ。
時折、自分の出番ではない時にもリラはパーティを離れ、森の幸などを手に戻ってくる。

リリィ:「…。…。…」
    (毛布に埋もれて身じろぎし、寝返りし、また眠りを深くする)

ヴェガ:(まるで死者のようにほとんど身じろぎもせず、静かに眠りについている)
     「・・・・・」

リリィ:「ふ…」
    (暖かいものを感じると深く考えることなくそれに身を寄せる。両手を添えて頭を乗っけて枕指定)

ヴェガ:(何かが自分の身体に触れれば、薄っすらと目を開けてそれを確認する)
     「ん・・・?」

ふと、見ればリリィが自分の腕をとって枕にしようとしている。

ヴェガ:「フッ・・・・」
    (軽く息を漏らすと特に気にもせずなすがままにさせる)

再び眠りにつこうとしたヴェガだが、不意に嫌な予感がしてリリィと反対の方向に首を向けた。

トール:「うぅん…ヴェガちゃあん…」
    (寝言なのであろうが、妙に生々しい息がかかる)

その距離はまさに紙一重、近いとかいうレベルではない。

ヴェガ:「・・・・」
    (相手に気づかれないようにすべく、音を立てずにやや距離を取ろうと動く)

だが、距離をとろうにも反対側にはリリィがいる。
ヴェルガード=サー=エリクソン、ここでまさに進退窮まった。

…ヴェガがこの苦境をいかに脱したかは詳らかではないが、次の朝はいつものようにやってきた。

リリィ:「……」
    (身支度したもののまだ半分寝ているらしく、毛布の上にぺったり座って首をかしげている)

リラ:「おはようリリィさん、今日はちょっといい茸が採れたから、食べてから行こう」
   (手を取ると、皆が囲んでいる朝食の鍋の所へ案内する)

リリィ:「…」
    (こくんと素直に頷いてようやく立ち上がり、若干ゆらゆらしながら所定の位置へ歩いていく)

森の幸を堪能した後、再び一行は深い不思議の森を行く。

最初に彼女が言ったように、その案内方法は奇妙で、一貫性がなくも思える。
いたずらに森の中を彷徨わせる妖精、といっても過言はなさそうな案内ぶりだ。

リラ:「…止まって。さっきの分かれ道まで戻ろう」
   (まっすぐな道中、急に立ち止まって)

リリィ:「。…ごめんなさい」
    (顔からクーガの背中に突っ込んでしまい、無言で鼻を押さえている)

ミール:「あれ、また戻るの?・・・もー、つかれたわー。もー。」
    (ぶーたれながら後をついていく。)

ヴェガ:(リラの指示に怪訝な表情をしつつも無言で歩みを進める)
     「・・・・」
    <全くもって・・・わかんねぇぜ・・・>


そうこうしている内に、一行は完全に方向感覚と時間感覚を失ってしまった。
もっとも、道中飽きる事はないだろう。翡翠の森の不思議な邂逅は常に目新しい。

ある日、一行は奇妙な生物と遭遇した。

リリィ:「…?」
    (何か聞こえたのか仮面の視線を流す)

音に敏感なリリィが気付いたその物音に、完全に気付いたのはミールだった。

ミール:「後ろッ!なんか出たミル!」
    (小声で注意を飛ばすが語尾がおかしいことになった。)

背後から現れた生物は、これまで見たどの生物にも当てはまらない奇妙なものだった。
その大きさは巨大な岩ほどもあり、なめらかな体表には苔がびっしりとはりついている。
目や足、それに似たものはなく、小さな木ならひき潰しながら進んでくるのだった。

ヴェガ:(見たことのない生物が目に入れば、その漆黒の双瞳を細めやや警戒を強める)
    「何だ・・・?ありゃ・・・?」

クーガ:「!?」
    (リラを庇う様に前へ出て、防御姿勢をとりつつ状況確認)

リリィ:「あれは?」
    (子供のように人差し指を視線の先に向けて問いかける)

リラ:「…大丈夫、こちらから手を出さなければ何もしてこないから」
   (皆を制止しながら)

その生物は、一行のすぐ脇を悠々と通り過ぎて再び森の闇へと消えていった。

その様な出会いを繰り返しながら、一行は森を進んでいく。
ある日、焚き火を囲む一行に向かって、リラは告げた。

リラ:「あれから2週間ちょっと、もう森の半分までは来たかな。
   これから先はどんどん寒くなっていくから、気をつけてね」


翌日、一行は深い森の残り半分の道を再び進み始めた…

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偵察任務(第六話)

天聖暦1048年星輝の月 翡翠の森

一行は、緑の海といっても差し支えない翡翠の森を進む。
風景の奇妙さは相変わらずだが、これでも森の端の方なのだという。

ヴェガ:(神秘的な景色にも些か飽きてきたのか思わず嘆息)
    「やれやれだぜ・・・・」

トール:「いい加減飽きてきたわねえ…」
    (ヴェガの様子に、周囲を眺めて)

リリィ:(歩きながら幾度か両者の間に無表情な視線を行き来させる)
    「…。…」

しばらく見ていると、微妙にヴェガの方が距離をとっているように見える。

リリィ:「…協力した方が、いいの?」
    (陶鈴のような声でぽつりととんでもないことを聞く)

トール:「…ううん。正々堂々、勝負よ…!」
    (決意のこもった瞳で見返す)

リリィ:(解った、と小さく頷く)

視線が合ったが、火花は散らなかっただろう。

クーガ:「言葉では同じ『森』だが、紅の森とはえらく違う雰囲気なんだよな…
     よほど特殊な言われでもあるのか?」

    (リラの後を続き、ふと思った疑問をリラにぶつけてみる)

リラ:「いわれかあ、うーん…絶対入っちゃいけない場所とかも一杯あるし、
   私が知っているのも、森全体でいえばほんのごくごく一部なんだ。
   プルミエールの村の人たちなら何か知ってると思うんだけど…」

   (それほど気にした事はないらしく、答えはやや要領を得ない)

時間的には、本来なら馬車で一ヶ月の距離を、徒歩でそのまま来ている計算になる。
それは『翡翠の森の不思議』と一言で片付けるとしても、ペースは早目といえるだろう。
森に慣れたリラは別格としても、慣れない長期間の行軍に足を気にかける者もいる。

ヴェガ:(時折横を歩く女性メンバーの様子を確認する)
     「・・・・」

ミール:「死神さんたらまーた色目使っちゃって。帰ったらあの子にちくっとかないとだわ。」
    (くすくす笑いながら暇つぶしにヴェガをいじってあそぶ。)

トール:「あたしの心配はしてくれないのぉ?」
    (巨大な荷物を背負ってしなをつくりつつ)

クーガ:「戦士の体力に合わせるとバカ見るぞ、辛い時は素直に言えよ」
    (後続の二人の女性陣に声をかける)

リリィ:(答える必要を感じていないらしく、硬質な沈黙を保つ)

ミール:「あら。サーゲからオフィスコまで七日で走った私をなめないで貰いたいわ。」
    (ふふん、と自慢げにない胸を張る。)

リラが既に道半ばであると告げてから、心なしか気温が下がってきたように思われる。
地面には白いものが降り積もるようになり、空も深い灰色の雲に覆われつつある。

ミール:「冷え込んできたわね・・・てか寒っ。私そろそろ寒くて死ぬかも・・・。」
    (防寒具を羽織りなおし、やたら寒そうにして歩く。)

やがて、一行は翡翠の森での最後の野営に入ろうとしていた。
巨大な樹木の根の間で、奥には十分な空間があり、ちょっとした室内のようだ。

リリィは焚き火にする小枝などを集めていると、ふと足元に気配を感じる。
見れば、小鳥のようだがリリィが近くにいても逃げる気配もない。

リリィ:「……」
    (無言で足元の生き物と見つめ合っている)

小鳥は羽でも傷つけたのか食べ物を得損ねたのか、力なくリリィの方を見上げている。

リリィ:「…。…」
    (求められるまま手を伸ばしてすくい上げると、キャンプの方へと戻っていく )

今日も珍しい森の幸が採れたようで、鍋からはいい匂いが漂っている。
小鳥を手に乗せてやってくるリリィに、リラがその手の内を覗き込む。

リラ:「あれ、珍しいね…その鳥、今頃はもっと南に移動してる筈なんだけど」

リリィ:「…」
    (開いた口に自分の食事を与えている)

小鳥は数口で満足したらしく、チチッと鳴いて軽く周囲を跳ねている。

やがて、シフトに従った夜警の時間となる。
この一月の間、翡翠の森にありながら特に何事もなく過ぎたのは、奇跡に近い事態だったろう。
もっとも、最大の敵は常に味方にいるという穿った見方も世の中にはあるにはある。

ヴェガ:「さて・・・寝るか・・」
    (そう言ってメンバーの眠る位置を確認し、トールと距離を取るように位置取り毛布に包まる)

リリィ:「…ふ…」
    (寒いらしく毛布にくるまった上で、また人にくっついて寝ている)

今回くっついて寝ているのはトールなのだが、不思議と危険な感じはない。
表では、焚き火を囲んでクーガとリラが見張りをしている。

クーガ:「つまらん旅につき合わせて悪かったな、茸狩りの面子は元気でやってるよ
     レンは町中走り回ってるだろうし、アーキスとマリアは今頃、遺跡に潜っているだろうな」

     (リラとの当番での何気ない会話を続ける)

リラ:「そっかあ、皆元気なんだね。また会いたいなあ」
   (にこにことして話を聴いている)

クーガ:「森を抜けたらガイド役も終わりだな、リラが居なかったら此処を抜けるとは
     考えられなかった。ありがとな。此処までの苦労を考えれば…大人数での
     このルートの移動は無理だろうね?」

     (暗闇の奇妙な森を見据えて言葉をかける)

リラ:「あんまり大勢だと、森の生き物達を刺激しちゃうから…去年、妖魔が一杯森に入ってきてね。
    森も大騒ぎになって凄かったよ、結局ほとんどは魔獣達に食べられちゃったみたいだけど…
    それと、帰りも森を使ってね。…絶対に帰ってこないと駄目なんだよ」

   (視線を落として、小枝を折り焚き火に投げ入れる)

森の夜は静かに更けていく。
時折聞こえる獣の遠吠えや奇妙な物音も、今ではすっかり慣れっこだろう。

クーガ:「湯でも沸かしておくか・・・俺とリラの分な、寝るとき水袋に入れれば湯たんぽになる。」
     (焚き火に鍋をかけて雪をつめて沸かしておく)

リラ:「うん、ありがと。クーガさんは色んな事知ってるね」
   (水袋の中身を空けながら)

やがて交代の時刻となる。
二人は湯を水袋に詰めると、交代を告げに簡易休憩所に向かう。

クーガ:「随分と冷え込むな・・・」
    (防寒具を着込み、水袋へ鍋の湯を詰めて抱きかかえて、更に上に毛布に包まってテントの中へ)

リリィ:(夢でも見たのか珍しく自力で起きたらしい。きちんと仮面をし、黒髪を編んで身支度している)

支度の済んでいないヴェガを起こすと、夜警交代となる。
夜半を過ぎ、寒さもいよいよ増してくる。朝方には耐え難い寒さとなる事だろう。

ヴェガ:「さすがにさみぃな・・・・」
    (目の前の炎を眺めながら、酒袋の中身を僅かに口へ運び喉の焼ける感触を味合う)

リリィ:(休憩時、鉄笛を取り出し胸の前で繊指を当てて孔を塞いだり解放したりと音を出さない練習)

焚き木の燃える音、はぜる音が周囲の音を支配している。

ヴェガ:「・・・・」
    (鋭い漆黒の双瞳を共に見張りを行うリリィに向け、観察する )
   <この嬢ちゃんは・・・一体何を考えてんのかねぇ・・・>

リリィ:「…」
   (精巧に造られた古い陶製人形のような姿を月下に晒し、異変がないかと仮面の視線を虚空へ投げている)

三番目であるミールとトールの夜警を経て、何事もなく最後の夜も明けた。

朝食を済ませ、しばらく歩くと、その森の終わりを告げる光景は唐突に眼前に広がった。
白々とした雪の広野が目の前に広がり、行く手には丘や林が見える。
その寒々しい風景にほぼ全員が悟った事だろう、まさにこれからが本番なのだと…

クーガ:「此処から更に100キロか…ちと後悔してるぞ」
    (見えた風景に唖然としている)

ミール:「雪か・・・寒いわけだわ。毛皮が欲しいとこだけどコレじゃ逆に目立つもんね・・・。」
    (たまに見える雪景色を見て、震えながら小声でぶつぶつ呟いている。)

ヴェガ:(目の前に広がる銀世界に思わず目を細め、東の方角に視線を向ける)
    「懐かしいねぇ・・・・・」
   <やっと・・・ここまで近づいたか・・>

リリィ:(もこもこの防寒具に腕を通して裏表をひっくり返している)

トール:「いよいよね…」
    (雪の白さに目を細め、表情を引き締める)

ここから先はガイドもなく、頼りは地図と己の才覚だけとなる。
一行はラングレイ周辺地図を広げ、ルートについて話合う。

クーガ:「現時点はどの変になるかね?方角は?」
    (コンパス、スケッチ、地図で現時点を確認。進行ルートを模索する)

現在地は(O-11 ※下記地図参照)であると判明する。

クーガ:「周囲を観察してからルートを考えるか・・・何か見えるかな?」
    (地図を見ながら望遠鏡を覗き、確認した地形を照らし合わせて進行ルートを決めていく)

ミール:「この雪のなか身を隠しながら進むとか・・・憂鬱だわあ。ああ、あったかいシチューが食べたい・・・。」
     (地図を見て進行ルートを模索しながら、なんか色々ぼやいている。)

ヴェガ:(クーガと共にスケッチを覗き込みラングレイ周辺の地形を確認)
    「ラングレイ近くの丘か何か見下ろせるような場所まで行けりゃあ、
    城壁の中まで観察できると思うんだがよ・・・」


望遠鏡での目視と地図を照らし合わせても、ほとんど遜色ないことが分かる。

クーガ:「なるべく身が隠せるルートは?あと、見渡せるポイントはこのあの辺りか?」
     (地図をなぞりながら、皆で相談)

ヴェガ:(辺りの地形を望遠鏡で確認し、敵影の確認と進行にあたっての考察をしながらメモを取る)
     「・・・・」
    <さて・・・どの辺なら陣取れる・・?>


ミール:「まあとりあえず身を隠しながら行く方が重要よね。この辺?」
     (林の方など身を隠しながら行けるルートを探す。)

リリィ:「…」
    (無言のまま、重要ポイントと思われる地図の一点を指さす)

話し合いの結果、方針が固まり、一行はいよいよ森を後にする。
リリィは懐に動くものに気付くと、一行の元を少し離れた。

リリィ:「さようなら」
    (キャンプから少し離れた場所に行き、感情の凍った口調と優しげな手つきで解放してやる)

白い繊手を離れた小鳥は、力強く羽ばたいてゆっくりと頭上を周回した後、南へ向けて飛び去っていった…

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偵察任務(第七話)

天聖暦1048年星輝の月 翡翠の森

いよいよラングレイへ繋がる白き大地の裾野へ立った一行。
この先は、頼るものといえば整えてきた準備と、己の才覚のみである。
一行は行軍計画という必要不可欠にして最後の準備に取り掛かった。

ヴェガ:「さて・・・こっからが本番ってとこか・・」
    (首に手を当て、軽く骨を鳴らすように首を振る)

クーガ:「さてと・・・」
    (地図とコンパスを取り出し、翡翠の森の端から望遠鏡を覗いて周囲をみまわす。)

正面に丘、それを取り囲むように林が分布しているようだ。

クーガ:「リラが抜けたから色々と変更するぞ、移動陣形は先頭をミール、左はヴェガ、
     右にトールで、後ろを俺が、中央にリリィを配置してひし形陣形で進む」

     (地面にカリカリと拾った枝で書き込みつつ)

ヴェガ:「・・・・了解」
     (クーガが地面に描く陣形を眺めながら小さく頷く)

リリィ:「…」
    (大人しく言うことを聞いている)

トール:「それでいいわ」
    (陣形をみて頷き)

クーガ:「夜営のシフトも変更する、それぞれ『ABCDE』として12時間の場合は
     『ACE』の4時間交代と『BD』の6時間交代。
     18時間休息なら『ACE』は6時間ごと、『BD』は9時間ごとに交代する。
     初日が『ABCDE』なら次の日は『BCDEA』とズレていくからな。」

     (地面にスケジュール表をズラズラと書き込みつつ説明)

ヴェガ:「文句ねぇぜ・・・。リーダーはあんただ・・・。」
    (顎の下に手を当てながら野営スケジュールを眺め、一呼吸置き)

クーガ:「まぁ、シフト変更の都合よく計画通りで行けば・・・
     最初の3泊、ABCEDの順で多く寝れる。だれが何処になるかはジャンケンだな」

    (ニヤリと笑みを浮かべ、拳を突き出す)

ヴェガ:「フッ・・・ジャンケンだろうがなんだろうが・・・俺は負けるつもりはねぇぜ・・・」
    (口の端を僅かに吊り上げ、拳を鳴らす)

クーガ:「最初はグージャンケン・・・」
    (振りかぶって、思い切り手を出す。)

ヴェガ:「・・・・!!」
    (クーガの合図に合わせて気合の入った手を出す)

リリィ:「…。…」
    (こだわりは無いのか無感動にじゃんけん)

トール:「ぅおらあああ!」
     (気合の入った野太い声を上げる)

リリィ:「…」
    (自分の出したグーを見下ろしてる)

クーガとヴェガ、リリィとミールの間で幾度かの激しいあいこ勝負があり、結果は以下の通りになった。

A:ミール、B:リリィ、C:トール、D:クーガ、E:ヴェガ

クーガ:「自分で計画して・・・自分で苦労を背負うとは・・・」
     (両膝をついてガックリとへこんでいる)

ヴェガ:「まあ・・・しゃあねぇな・・」
     (特に表情を変える様子もなく、軽く肩を竦める)

リリィ:「…」
    (特に感慨もない様子で荷物のとりまとめに戻っていく)

やがて、全ての準備の終わった一行は翡翠の森と、リラに別れを告げる。

リリィ:「…さようなら」
    (何の感慨も匂わせぬ口調で告げて歩き出そうとする)

リラ:「…リリィさん、さようならじゃなくて…また、必ず会いましょうね」

リリィ:「…。…じゃあ、またいつか」

    (やや不思議そうに首をかしげ、静かに見返す)

リラ:「…気をつけて、本当に無事で戻ってきてね」
   (去っていく一行の後姿に手を振りながら)

そして、一行は白い地獄に足を踏み入れたのだった。


雪中突破:初日

(N10:慎重)
翡翠の森に隣接した林に入っていく。
慎重に侵入したそこは、雪の量も少なく歩きやすい。
恐ろしく静かな林で、耳が痛くなるほどの静寂に満ちている。

(M10:移動)
林を出て、丘を正面に見ながら北へ歩き出す。
移動に集中して、ひたすらに北を目指す。
雪質は乾燥して軽く、気温のせいか比較的固い。

ヴェガ:「・・・・」
    (雪中も慣れた様子で淡々と歩みを進めつつ、他のメンバーの様子を確認する)

リリィ:「…」
    (カンジキに慣れないらしく早速コケて雪まみれになっている)

ヴェガ:「ま、がんばんな・・・」
    (雪中行軍に慣れないメンバーに時折ぶっきらぼうに手を貸す )

リリィ:「…平気」
    (緊張感の感じられない涼やかな声で答えて髪に雪をつけたまま歩き出 す)

トール:「きゃっ!」
    (ばふっと前のめりに倒れ、しばらくしてちらっとヴェガの方を見る)

…しばらくして、トールは首を傾げながら自分で起き上がって歩き始めた。

(L10:移動)
平原をコンパスを頼りに北へ歩いていく。
時折起こる地吹雪は視界を完全に隠し、方角を狂わせる。
しかし、遠くにそびえる丘が北へ向かう目印となった。

ヴェガ:「・・・」
    (時折何かを思い出したかのように東の方角に遠く視線を向け る)

(K10:移動)
丘の麓まで一気にやってきた。
丘を迂回するように、北西へと向かっていく。
行く手には丘を包むような形をした林が見える。

(J9:慎重)
丘を慎重に北西へ迂回するように登っていく。
視線を周囲に走らせるが、悪天候もあり敵影は見かけられない。
もっとも、それは相手にしても同様であろう。

(I9:慎重、睡眠)
丘に隣接した林に慎重に入っていく。
雪は変わらずあるが、量は少なく気温も何とか耐えしのげる。
一行はここで睡眠をとることとした。

クーガ:「火の明かりを周囲から見難くするため、地面を掘り下げてから火をおこす。
     ミールはトラップの設置を頼む。他の奴はテントと薪を用意してくれ。」

    (ナイフを取り出し、地面を囲炉裏の様に堀り下げて、そこで焚き火を行う。
     特に街道側、ラングレイ側に明かりが行かない様にテント等の配置にも気を使 う)

明かりはとにかく目立つので場合によっては致命的となる。
クーガ達は固くなった地面を深く広く堀り、光が隠れるようにテントを張った。

ミールは面倒くさそうに頷くと、手際よく周囲の木と雪を利用して罠を張っていく。
たこ糸や鳴子は雪にうまく隠れ、うかつに足を踏み入れれば激しい音が鳴り響く事だろう。

クーガ:「薪拾うついでに、適当な大きさの石も拾ってきてくれよ」
     (夜営準備中の面々に頼みごと)

ヴェガ:「あいよ・・・」
    (クーガの指示に対して軽く返事をし、黙々とテント設営を始める)

クーガ:「焼いた石を布で覆ってテントの中に入れとけば多少はマシになる。
     あと、寝る奴は水袋にお湯入れて持って行けよ。」

     (湯の入った鍋を指差して)

ヴェガ:「ま、こんなもんだろ・・・」
     (テント設営が終われば、出来栄えを確認する)

雪がかぶさり、傍目からは普通の雪地にしか見えないだろう。出来栄えはなかなかだ。
一行は、こうして初日の行軍を終え、休息と見張りに入った。


雪中突破:2日目

休息中、特に何事も無く、夜は明けていく。
翌日…天候は相変わらず悪い。行軍の妨げでもあり、敵からの隠れ蓑ともなる。

(H8:慎重)
見張り、それ以外の者も十分な睡眠をとってから移動を開始する。
丘と林の境界を行くようにして北へと進んでいく。

移動中…ふと、クーガは静寂に満ちた林で何かの音を聞いた気がした。

クーガ:「今何か聞こえなかったか?」

    (仲間に注意を促しつつ、気配を探り、目を凝らす)

一行も動きをとめ、周囲に神経を向ける。

リリィ:「…」
    (フードを落として髪を流し彫像のように佇み、風の音に耳を澄ましている)

やがてミールが何かに気付いたようで、無言で指をさしそれを示す。
それに気付いたリリィが、他の気付いていないメンバーにも喚起する。

リリィ:「見て」
    (袖を引いて彼方を指さす)

林の東側の奥(H-7地点)に、何か巧妙にカムフラージュされた建物が見える。
望遠鏡でそれを眺めると、その周囲でうごめく妖魔の姿が確認できた。
ざっと見るだけでも、ゴブリンとホブゴブリン、オークがいるのが分かる。

どうやら、林の中には妖魔の見張り所があるようだ。
建物の規模からいえば、その奥に10〜20は居てもおかしくない。
幸い距離は遠く、今は風下に立っているようだ。声が偶然風に乗って聞こえたのだろう。
慎重に歩いていなければ、聞きつけることができなかったに違いない。

一行は慎重にその場を離れる事とした。

(G8:慎重)
林の中を慎重に北に進む。時折、雪が木々の間を縫うように吹き込んでくる。
風景は特に変わりなく、冬枯れの木が林立して一行の姿を隠してくれる。
一行は二日目の移動をここまでとし、ここで野営を張ることにした。

クーガ:「手軽で良いんだが・・・不味いのはなんとかならんか?帰ったら絶対美味い物喰う。」
     (保存食を食べつつ愚痴る)

ヴェガ:「戻ったら、ジョンに美味い飯と酒でも用意してもらわねえとな・・・」
    (食事中のクーガの愚痴に苦笑しつつ淡々と食事を進める)

林の中には妖魔の見張り所がある。一行は細心の注意を払って設営、見張りを行った。
巡回ルートに入っているのか、一度妖魔が付近を訪れたが、こちらには気付かずに立ち去った。
遭遇したのが設営中であったら見つかってもおかしくない距離だったが、再接近したのは一度きりだった。


雪中突破:3日目

周囲を確認しつつ野営をたたむと、一行は再び歩を進め始めた。
今日は丘の上を目指す行程で、途上の目立つ部分は素早い移動に費やす事にする。

(F9:移動)
丘の斜面を、ひたすら上をめざし登っていく。
無理に頂上を目指すのではなく、斜面のなだらかな所を選ぶ。
背後にある林の監視所が気になるが、悪天候が味方してくれているようだ。

(F10:移動)
天候は益々ひどくなり、激しい風雪が防寒具に包んだ身をも凍てつかせる。
目指すのは丘の頂上であるので、とりあえず方向を見失う事はない。

トール:「…もう少しあたしの近くを歩きなさい、少しは風がしのげるわ」
    (風向きを確認し、真ん中を歩くリリィに声をかけて)

リリィ:「…」
    (歩きながら風避けとなってくれる戦士を少し不思議そうに見上げる)

トール:「か、勘違いしないでよね。いざって時、背負っていくのが面倒なだけなんだから!」
    (顔を紅くして視線を外し、歩き始める)

リリィ:「…」
    (穏やかな無表情で頷く)

(E10:慎重、休憩、観測、睡眠)
時間をかけて、一行は丘の頂上に達する。
悪天候のせいか風雪がひどく吹き付け、視界が極めて悪い。
一行は今日はここで移動をやめ、休息、観測、睡眠をする事にした。

丘の上は雪が積もっているが、常に吹き飛ばされているのか量はない。
しばらく掘ると地面に達し、それを広げて休息・睡眠の場にする事とした。

ヴェガ:「・・・・」
    (焚き火を絶やさぬよう、薪を追加し木の枝で焚き火を突っつきながら揺れる炎を無言で眺める)

クーガ:「念のために・・・」
    (焚き火の周りに、仕様前の松明を1本置いておく)

この火だけが一行の生命線といえる。林が近いため、燃料に不足しないのが幸いだったろう。
雪で湿った枝を乾かし、新たに継ぎ足していく。これが消えた時、全員の命の火も同じ運命を辿るだろう。

ヴェガ:「さて・・・・」
    (行軍で観察した地形を思い出しながらラングレイ進軍の考察をしながらメモにペンを走らせる)

春になれば、この雪もとけるだろう。
そうなれば、いま居る丘は重要な拠点となりそうな気がした。
結局街道跡を攻め上る事になるのかもしれないが、強行偵察の前例もある。
しかし、それくらいの反攻くらい撃破できなくて城を攻め落とせよう筈も無かった。

クーガ:「これがただのキャンプなら、テント一つを即席サウナにするところなんだがなぁ〜」
    (焚き火の中から石を取り出し天幕で包んで寝ている奴のテントの中へ置き。新たに石を焼くため放り込む)

やがて交代の時間となり、ミールが寒そうにしてテント内に戻ってくる。

リリィ:「…。?…。…」
    (見張りの時間に合わせて一応起きたがまだ疲れが抜けきってないらしく、座ってぼーっとしている)

トール:「大丈夫?…このスープ飲んでから行きなさいな、温まるわよ」
    (焚き火の上にかけた鍋からスープを器に汲み出して渡す)

温かいスープで身体を温めてから、リリィはテントの外べりに出た。

リリィ:「…」
    (適当な荷物を椅子代わりに足先を揃えて少し俯き気味にちょこんと座る)

外は塗りつぶされたように白く、ごうごうと音を立てて雪片を一方向へ巻き上げている。
生あるものの世界とは思えない、自然のみが荒れ狂う美しい死の世界であった。

リリィ:「…ふ…」
    (少し寒そうに身をすくめて襟元を整えている)

休憩と睡眠の間、日が暮れる前に一行は偵察を開始した。
風雪のやむ時を見計らい、テントから身を少し出して望遠鏡をのぞく。

破壊された街道の先、はるか北の地平線に建造物らしき影がうっすらと見える。
恐らく、あれが目指すラングレイなのであろう。人類が目にした、数年ぶりの姿である。
しかし、良からぬものも多く目にする。空を飛ぶハーピィ、地を歩く妖魔の一隊…
行く手はこれまで以上に厳しく、困難に満ちている事が想像された。

やがて夜も更け、一行はこのまま見張りを立て睡眠に入った。

丘から眺める景色は雪の白と夜の黒のみで、分かりやすいが単調に過ぎた。
風雪は相変わらず不規則に荒れ狂い、特注のテントも時折嫌な音を立てる。

ヴェガ:「後頼むわ・・・」
    (夜営が交代になれば、湯を水袋に入れてテントの中へ)

ミールがその声で眠そうに起き出し、のそのそとテントの外べりへ移動していく。

ヴェガ:「フゥ・・・」
    (テント内のメンバーの位置を確認し、トールと距離を置いて眠りにつく)
   <こんな所で消耗してもしょうがねぇからな・・・>

リリィ:「……?」
    (半寝ぼけで隣の人物をロックオン。湯たんぽ持参でもそもそと毛布ごと移動してひっつく)

何やら離れた場所から、ギリギリと歯軋りの音がするのは寝ぼけての事であろうか。

リリィ:(0.5秒で即寝)


雪中突破:4日目

特に何事も無く夜は更け、そして明けた。目を疑うばかりの快晴である。
テントは半ば雪に埋もれていたので、発見はされにくいだろうが、片付けに手間取った。
それでも熟練の冒険者達はそれを手早く済ませ、次なる地点へと移動し始めるのだった。

(D11:慎重、観測)
時間をかけ、慎重に丘を移動する。
天候は変わらず快晴で、歩きやすい反面、発見率が高くなる。
ラングレイ向きの斜面に到達し、一行は望遠鏡での偵察を行う。

…ふと、空に向けた望遠鏡の一点に影が映る。
有翼の妖魔…ハーピィである。意外と距離は近く、丘の麓の上を飛んでいると思われた。
ハーピィは望遠鏡の中で、不意に視線をこちらに向けた。
そして不審そうにしばらく滞空すると、身をこちらに向けて滑らせてくる。

一行はクーガの合図と共に地に伏せ、白い大地と一体化した。
ハーピィは一行の近くを飛びすぎると、しばらく丘の周りを周回し続ける。
快晴なのが恨まれる。このままでは、遠からず発見されることだろう。

トール:「リリィちゃん…」
    (隣に伏せるリリィにひそひそと声をかける)

リリィ:「どうかした」
    (冷たくも暖かくもない静かな声を放つ)

トール:「貴女、『きまぐれ』って奏でられるかしら?良かったらお願いしたいんだけど」
    (飛び回るハーピィにこっそりと視線を向けて)

トールがかけた声に応じ、リリィは冷たい鉄笛に瑞々しい唇をあてると、『きまぐれ』を吹きはじめた。
敵の関心を引きつけるか、逸らすかいずれかの効果をもたらす呪歌である。
どちらにしても、仲間を呼ばれる心配はない。一行は、ひきつけた時の為、武器に手をかけた。

…やがて、曲が風に乗ってハーピィの耳に届いたのであろう。
ハーピィは不意に方向を向けると、興味を失ったように飛び去っていってしまった。

トール:「助かったわ、リリィちゃん。…多分、望遠鏡のレンズが太陽光に反射したのね」
    (斬馬刀から手を離して息をつくと、雪まみれの顔を上げて)

(C12:慎重)
ハーピィを何とかやり過ごした一行は、ラングレイ向きの斜面を慎重に降りていく。
天候は突如悪くなったかと思えば、再び嘘のように陽が差し込んでくる。
しかし雲の動きは早く、天候の大きな変動はこれから先も予想された。

リリィ:(音を上げる事も無く、黙々と歩いている)

(B12:慎重、休憩)
丘を下った所まで来て、林を前に一行は休憩をする事にした。
もっとも、雪中なので簡易的に掘った雪の穴の中では大して疲労も回復しない。
それでも一息つくと、再び一行は林に向けて歩き始めた。

(A12:慎重、休憩)
一行はラングレイまでの道程の半ばに位置する林に足を踏み入れた。
陽は既に傾き、気温も下がっている。時間的にはここで野営をすることになるだろう。

再び一行は地に穴を掘り、明かりを消す独特の野営を張り始めた。
これから先は焚き木を拾い集めるにも細心の注意が必要となることだろう。
しかし、一行の体力を無言の内に削り取っていく寒さには対抗手段は必須だった。

そしてこれからは寒さだけが敵となるのではない。
もっと実際的な、これまで身に着けた技術と愛用の道具が必要となる敵が増えるのだ。

ヴェガ:「フゥ・・・・」
    (炎に照らされ妖しげに輝く大鎌の刃の煌きを確認しながら、丁寧に布で拭いていく)

クーガ:「・・・・・・良し」
    (油を取り出し、武具の稼動部に注して、動作確認をしておく)

リリィ:「楽しいの」
    (物怖じすることのない声と共に、瞳の見えない白い仮面が真っ直ぐに向けられている)

さすがに、その問いは戦士達にとっては初めてだったかもしれない。

リリィ:「…それとも安心するから?」
    (響きのよい、しかし感情の無い声音で淡々と尋ねる)

ヴェガ:「狩るためさ・・・」
    (作業の手を一旦止めて、ぶっきらぼうに言い放つ)

リリィ:「…そういうものなの」
    (淡々と確認するだけの口調)

林に隠されたテントの中で、静かに夜は更けていく…

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偵察任務(第八話)

天聖暦1048年星輝の月 ラングレイ跡郊外

翡翠の森を抜けた一行は、雪で白く彩られた平原を密かに進行していく。
林をくぐり、丘を登り、時折危機に面しながらも道程の半分に達した。
ここまでも敵中ではあったが、ここに至れば敵の懐といっても過言ではない。
一行は、より慎重を期しながらも、さらに歩を進め始める…

雪中突破:5日目

(O13:慎重)
夜が開け、野営を畳んだ一行は、慎重に白い雪原に歩みだしていく。
空には雲が低く垂れ込め、いつ雪が舞い落ちてきても不思議ではない。
ラングレイ方面には林があるが、今は完全にハーピィの行動範囲内である。

クーガ:「そろそろハーピィの領域だな、上空にも気を遣いつつ木の陰に隠れながら
     移動するぞ」

     (ガニ股でカンジキをはいたまま移動開始)

(N14:慎重、休憩)
丘の麓にある林のルートへ慎重に足を踏み入れる。
雪はあるものの少なく、一行はここで風を避けつつ休憩をとった。
休憩中に一度、木の陰をハーピィの姿が飛びすぎていくのが見える。

(M14:慎重)
天候は相変わらず曇りで、黒い雲の間から白いものがちらつき始める。
林から林への移動途中であるが、目には近く見えても足取りは遅々として進まない。
足から這い登る冷たさに耐えつつ、一行は慎重に歩を進めていく。

(L14:警戒、睡眠)
一行は警戒しつつ林に侵入、ルートを確認しつつ安全な位置で野営を張る。
雪はそれ以上大降りにはならず、雲の切れ間から星が見え隠れしていた。
風は比較的強く、林の中にいても容赦なく吹き付けてくる。

リリィ:「…」
    (戻ってくる途中で転んだらしく雪まみれになって戻ってくる)

トール:「だ、大丈夫?無理して遠くに行かなくても大丈夫よ」
    (焚き木などを受け取りながら衣類についた雪を払ってやり)

リリィ:「…」
    (体についた雪をぱしぱし払っている)


雪中突破:6日目

野営の最中も、特に何事もなく朝を迎えた。
一行は先に備えて十分に睡眠時間をとり、ラングレイを見下ろせる丘へのルートをとる。
天気は小康状態で、それなりに陽が差し雪面を眩しく反射している。

(K14:慎重)
一行は林の中を慎重に進む。
林の中ではあるが、それ故に気をつけなければならない事もある。
先に発見した、林の中に設置された監視所の例もある。

(J13:慎重、休憩)
林の中を進んでいく。どうやら、今の時点では敵の監視所は見当たらない。
林の外は、いつの間にか悪天候となり風と雪が吹き荒れている。
木の多い、風雪の避けられる場所を選んで一行は休憩をとった。

(I13:慎重)
休憩に使うために雪中に掘った穴を埋め、一行は再び林を進み始める。
周囲を慎重に観察しながら移動する。風雪は相変わらず激しい様子だ。
妖魔の拠点が近い事すら忘れそうになる、静かな林の風景である。

ヴェガ:「・・・・・」
    (自身が位置する方向について最大限の警戒を行い、
     見落とし等ないようにしながら歩を進めていく)

リリィ:「っ…」
    (突風に飛びそうになるフードを押さえる)

(H13:警戒、睡眠)
一行は林の北端に到達し、警戒しつつここで睡眠をとることとした。
明日は、その日の内に丘を登りきらなければならない。
ハーピィや妖魔の姿も見ないわけではないが、やはり妙に少ない。
季節が関係しているのか、それとも…。


雪中突破:7日目

白い平原に踏み入ってから、一週間が経過した。
一行の健康状態は、この風雪の中にあってもそれほど悪いものではない。
寒さへの十分な対策と、移動に見合った睡眠がとれているからであろう。

(G13:慎重)
森を出た一行は、慎重に丘を登っていく。
先に、それに気が付いたのはリリィだった。

リリィ:「敵…」
    (感情の凍り付いた声で囁き視線の先に小さな人差し指をまっすぐ向ける)

リリィの差す先を見れば、丘の向こうから小さな影の一団が丘を降りていく所だった。
身を隠し、しばらく観察していると、一団はラングレイ方面へと姿を消していった。
しばらくそこで留まり、特に異変もないことを確認し、一行は再び進み始める。

(F13:慎重、休憩)
雪がちらつく中、一行は慎重に丘を登っていく。
次に、それに気付いたのはヴェガだった。

ヴェガ:「・・・・」
    (敵影や拠点を発見すれば先頭を歩くミールに触れて
     から、視線と手振りでメンバーにサインを送る)

見れば、ラングレイ方面から一団が丘を登ってきている。
良く見ると、丘の中腹(E13)に比較的大きな建物があり、一団はそこに入っていく。

ミール:「拠点・・・かしら。迂回した方がよさそうね。」
     (小声で仲間に告げる)

クーガ:「…」
     (無言で『敵』『拠点』『迂回』のハンドサインを出し、迂回ルートを移動)

リリィ:「…」
    (指示に従い足を速める)

一行は拠点を避けるように移動し始めた。

(E14:慎重)
雪はひたすら降りしきる。視界は何とか保たれているが、何度か方角の確認が必要だった。
ほど近いはずの拠点が気になるが、視界が悪いため発見は困難だろう。
敵影に注意しながら、なおも一行は丘をその頂上目指して進んでいく。

ミール:「寒いわ・・・この雪もう何とかなんないかしら・・・。」
     (震えながら後をついていく)

リリィ:「…。…」
    (前を歩くミールの足跡をたどって黙々と歩いている)

(D14:警戒、睡眠)
頂上に達した一行は、夕闇の中をさらに進み、ラングレイ側まで来てから足を止めた。
位置としては最高に目立つ地点だろう。一行は慎重に場所を選び、雪を堀り身を沈めた。
運にせよ何にせよ、とりあえず此処をしのげなければ偵察の任は果たす事ができない。
そんな夜に、全てを白く染め上げんと吹き付ける風雪が、逆に頼もしかったに違いない。

リリィ:「…」
    (白い死の世界に佇み、降りしきる雪とその向こうのラングレイを見る)

トール:「もう、目と鼻の先ね…ラングレイ」
    (後ろから声をかけて)

リリィ:「…。大丈夫、なの」
    (無表情な仮面を向けて透明な声を放つ)

トール:「あたし?…勿論、大丈夫よ。色々と思うこともあるけど…ね」
    (風雪の切れ間に見え隠れするラングレイを眺めて)

見張りの順番を待つ者たちの寝息がもれ聞こえてくる。
耳をつんざく風雪の音も、既に彼らには子守唄程度に過ぎないのかも知れなかった。


雪中突破:8日目

一行の張った野営の周囲は、風雪のせいで完全に自然と一体化していた。
すでに、ラングレイ跡までは目と鼻の先といっていい。背後には拠点を抱えている。
つまりここでの被発見は、そのまま死を意味するという事でもあった。

(D14:観測)
昼近くまで十分な休息をとった一行は、食事の時間に合わせて観測を開始する。
妖魔も、日に三食という食事内容に変わりは無いのであろう。街跡からは炊煙が上がっていた。

クーガ:「日の光の向きに気を使いながら覗こう、望遠鏡は一つだから
     周囲警戒と、地図への書き込みを同時に行う。なるべく短時間で終わらせるぞ」

     (日の向きを確認しつつ、望遠鏡でラングレイを観察する)

テントの隙間から望遠鏡を構え、ラングレイ跡を観察する。

ヴェガ:「観察と記録は任せたぜ・・・。俺は警戒にあたる・・・」
    (ぶっきらぼうに言い放ち、聴覚に意識を集中させながら
     漆黒の瞳で周囲の空や眼下の地面の敵影を探す。)

クーガ:「ハーピィが来ないか?見ててくれ、接近してくるようなら、とっと隠れるぞ」
     (仲間に周囲警戒を促しながら偵察継続)

食事の時間のせいか、妖魔の姿は余り見かけられない。
ハーピィも、何処かから戻ってくるものばかりのようだ。

クーガ:「兵舎や厩なんかの位置、数、敵兵種、進行ルート上の警備態勢、見張り塔の向き…
     ここで得られる情報は全て地図に書き込んでくれ…飯煙は…兵舎は南に…」

     (地図に書き込みをしながら次々と情報を付け足していく)

城壁は崩れたままのものが多く、実質城塞都市とは呼べない有様である。
補修をされている部分もあるが、中途半端に投げ出した感が強い。
街中の施設も、使えるものは利用している、という感じで、荒廃が目立つ。
主要道路は雪かきがしてあり、そこをゴブリンなどの妖魔が行き来している。
居住できる建物が少ないのか、所々に大き目のテントも張ってあった。

兵舎はまとめられているようで、半壊した兵舎に簡素なテントが密接して並んでいる。
街の中央には城が健在で、時折大手門から妖魔が出入りしているのが見える。
その周囲に鍛冶屋、武具屋、道具屋、酒場などの施設があり、今も用いられている様である。
街の規模としてはなかなかのもので、ここ数年である意味復興しているといえる。
特筆すべきは、街中にはまれに人間やドワーフ、エルフらしき姿も見かけられるという事だった。

見張り塔は城壁の上にある幾つかが稼動しているようだが、壊れているものも多い。
崩れた城壁の上を歩くものの姿も少なく、警戒範囲はかなり狭いだろう。
偵察は主にハーピィに頼っている感が強く、しばしば飛び立つ一団を目にする。
差し当たって、これから進むルート上も危険はさほど大きくないと判断できる。

敵兵の種類は、見る限りはやはりゴブリン、ホブゴブリンが多いようだ。
それぞれ弓、剣、槍を手にしているものがおり、変わったものは見られない。
もちろんサイアモスやオーガといった種類も、多くは無いが見かける事ができる。

城壁内で見かける兵器としては、投石器が城壁の近くに放置されているのみだ。
雪をかぶって分かりにくいが、確認できるだけでも5台、正面に向けて設置されている。

炊煙の規模は、やはり兵舎付近からが多く、その他城や街中からも上がっている。
その範囲や規模などについて、詳細に書き記した。

城壁の構造は、特に新しく増築した箇所は見当たらず、陥落時のままといえるだろう。
厚さも高さも城塞都市らしく十分にあるが、陥落時に妖魔により破壊された部分が多く、
破損している部分が何箇所も認められる。しかも、ほとんど応急手当て程度の様子だ。

―観測が終わり、これで依頼された目的は達したといえるだろう。
一行はそれに留まる事無く、さらなる情報を求め、野営を畳み、歩を先に進め始めた。

(C14:慎重)
一行は次なる目標として城壁にとりつくべく、慎重に丘を下っていく。
既に見張りの視界は切れているはずだが、ここまで近いと何が起こっても不思議ではない。
ただでさえ、上空を多くのハーピィが行き来しているのである。東、西、そして…

ミール:「上よ!隠れて!」
    (仲間に聞こえる程度の声で注意を飛ばし、身を隠せそうなところへと逃げる)

逃げようとしたミールはそのままトールの手に押しつぶされた。

トール:「静かに…動くものほど、目立つものは無いのよ」
     (囁くように声をかけて)

彼らの姿を隠したのは舞い散る雪か、それとも冬の早い夕闇の訪れか…
いずれにせよ、彼らの直上と通り過ぎたはずのハーピーは、何の変化も見せず飛び去った。

(B14:警戒、睡眠)
情報さえ正しければ、夜になれば差し当たってハーピィの脅威は無い。
一行は林の中に警戒しながら足を踏み入れ、そこで野営をする事とした。
明日こそが、本当の正念場…城壁での調査が行われるのだ。

リリィ:「……」
    (毛布の上にひよこ座り。寝る直前は距離をとっていたはずなのに
     しっかり人の懐に入り込んでいる状況に不可解を味わっている様子)

トール:「あら…ひょっとして寝ぼけて…?」
    (その様子を面白そうに眺めて)

リリィ:「…」
    (無反応)


雪中突破:9日目
その日は、まるで彼らの行動を後押しするかのような、大荒れの悪天候だった。
勿論身を切り裂くような寒さではあるが、その雪は壁となり彼らの姿を隠してくれる。
また、いかにハーピィとはいえ、この風雪では偵察飛行などに出れよう筈も無かった。

(A13:慎重)
一行は野営をたたむと、慎重に林の中を城壁に向かって歩き始める。
風雪は厳しく、林の中でさえ先は見えづらい。場合によっては遭難もしかねない程だ。

ミール:「もう一度、逃走ルートも確認しておきましょう。念のためね。」
     (地図を見ながら、逃走ルートを何通りかシミュレートしておく)

位置を確認しがてら、逃走ルートに関しても一行は再確認した。

(A12:警戒)
何の身も護りも無い、まっ平らな雪原を一行は歩みだす。
眼前には視界の端まで城壁が広がっている筈だが、風雪のせいで正面の壁すら見えない。
だが、雪国の天気は余りにも気まぐれだ。一行は警戒しながら、少しずつ歩を進めていく。

(A11:警戒、休憩、城壁調査)
遂に、一行は城壁に取り付いた。
城壁はあちこちで破損しており、一行はその窪みの一部に姿を隠して休憩をとる。
ここまで来てしまえば、もう敵の懐どころか、喉下であるといっていい。

一時の休息を終えると、一行は調査を開始する。

クーガ:「素材は…土台は…」
     (城壁の素材、構造を観察、土台となる部分にも着目しておく)

城壁の素材は石、そしてラングレイ城壁独特の漆喰である。
簡単な修復がしてある部分に関しては、単に石を積み上げた程度でしかない。
余りにもお粗末ではあるが、それですら堅固な印象がする城壁である。

ヴェガ:「調査は任せるぜ・・・。俺は周囲の警戒にあたる・・・」
     (大鎌を持つ手に力を込め、いつでも動けるような態勢をとりつつ
      自らの五感を集中して最大限の警戒を行う)

リリィ:「…」
    (沈黙したまま仮面越しに周囲を睥睨)

差し当たって、周囲に敵兵の姿は認められない。

ミール:「とりあえず、できるだけ近づいて見てみるわ。」
    (地図を見て城壁付近の地理を頭に入れながら)

リリィ:「…」
    (大丈夫なのかと問いかけるような沈黙)

ミール:「大丈夫、逃げ足には自信あるのよ。」
    (くすくすと笑い、城壁のより近くへと移動を始める)

ミールの姿は、すぐに白くつめたい雪と風で出来た壁の向こうに消えていった。
それを見送ったリリィの目に、雪の切れ間から動くものが見えた。

リリィ:「…。?…。…」
    (城壁から彼方に続く道を眺める)

それは風雪に耐えながらゆるゆると進む荷馬車で、見れば林の間に道があるようだ。

リリィ:「補給路」
    (ぽつりと言って繊指で地図をなぞる)

どうやら、地図には無い道のようだが…
一方、ミールは城壁の内側に潜入していた。

ミール:「・・・。」
    <さて・・・と。お仕事お仕事。>

    (気配を殺し、城壁付近の探索・偵察を開始する)

ラングレイ街跡の中も、風雪が厳しく吹き荒れている。
瓦礫や建物も多く、彼女にすればここでの偵察は何ほどのものでもないだろう。
無駄のない動きで遮蔽を利用しながら街の中へと進んでいく。

かつてはその住民70数万を数えたラングレイは、やはりすっかり廃墟と化していた。
風雪のせいもあるのだろうが、外を出歩いている妖魔も少ない。
その少ない歩行者の中に、ダークエルフなどの姿を確認しつつ、ミールは戻ろうとした。

?:「…おっと、動かないで下さい。声も立てないで」

彼女の鋭い危機感知能力すら、何の反応も示さなかったのである。
静かに振り向くよう告げられ、ミールは初めてその者の姿を見た。
口元に薄い笑いを浮かべた中肉中背の人間の男で、灰色の髪と瞳をしていた。
一見ごくありふれた青年で、特に何の特徴も無く、逆に本体をつかみにくい。
唯一分かっている事は、ミールと一行の命は、この青年が掴んでいるという一点だった。

青年:「これはお美しい密偵ですね。…ガウディから?それともゼクスですか?」

青年はミールの装備を上から下までざっと眺め(胸の辺りをみて残念そうに眉を下げ)た。
…青年とミールは何を話したのだろうか。少なくとも、青年がミールを解き放った事は確かだ。

青年:「お帰りはせいぜいお気をつけて、小事が万事を台無しにしますよ」

去り際、青年はそう言ってミールを見送り、何事も無かったかのように背を向けて立ち去った。
再び城壁まで戻ったミールは、一行と合流した。

クーガ:「ルデュへの土産は十分だろう、とっとと引き上げるぞ」
     (偵察終了後、速やかな離脱を促す)

ヴェガ:「ああ・・・・。これ以上長いする必要はねぇ・・・」
    (クーガの合図に従い、周囲を警戒しつつ離脱態勢へ)

そして、偵察任務を完遂した一行は、慎重に帰路をたどりはじめた…

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偵察任務(第九話)

天聖暦1048年星輝の月 ラングレイ跡郊外

今日も、雪が横合いから殴りつけるように吹き付けてくる。
その白く冷たい加護を受けながら、一行は偵察任務を終え帰途に着いた。

ヴェガ:「さて・・・さっさとずらかろうぜ・・・」
    (行きと同様、自身の位置する方向に対して最大限の警戒を持って進む)
    <思いの他・・・緩かったな・・・。連中は既にラングレイを
     拠点として重要視してねえってことなのか・・>


リリィ:「………」
    (仮面を隠すようにフードを引き下げ、声なく唇を動かし、風の中ラングレイに
    背を向け歩き出す)

クーガ:「♪行きは良い良い帰りは怖い〜って事で、警戒は怠らず帰るぞ」
     (殿の位置をキープしつつ、後方に気を使いながら雪原を歩く)

慎重に丘を登り、林を視界の盾にし、雪原に穴を掘って身体を休める。
行程そのものは行きと変わらないが、帰る者の常として、足は速めだ。

クーガ:「足跡を辿られると面倒だ…ある程度の離脱速度は必要になる、慎重にかつ急いで」
     (ガシガシと慣れたガニ股で行軍)

ミール:「小事が万事を台無し・・・か。失敗なんてしてらんないわね・・・。」
     (来た時よりも更に警戒を高めながら進む)

ヴェガ:「こんなとこで見つかっちまったら・・・さすがにヘヴィだな・・・」
     (時折全方位の上空を見渡し、ハーピーの存在の有無を確認する)

天候の良い日は、時折ハーピィの姿を見かけるが、遠ざかるごとにその率は減っていく。

クーガ:「そろそろ中継基地があるポイントだな、近寄る必要もない、迂回するぞ」
     (地図を確認し、来たルートで見つけた中継基地は迂回を指示)

その日は天気も良く、足跡はしっかりと雪原に刻まれていた。
中継基地も近く、近くにハーピィが遊弋している事を考えれば、危険な事態だろう。

リリィ:「…」
    (フードを落として不安定な足場につま先で立ち上がり、手の楽器をぴたりと構える)

リリィは風向きが変わるのを待ち、呪歌の準備を整える。

リリィ:(最初の一音が鮮やかに大気を震わせて響き、続く一音が余韻に重なる)

音色の響きに従って緩やかに風が舞い、ささやかな地吹雪となって一行の足跡を消していく…

丘陵の基地、林の中の偵察所を迂回し、一行はさらに南へと歩を進めていく。

ミール:「私がまったく気づかないなんて・・・ショックだわ・・・」
     (城壁内で会った青年のことを思い出し、ぶつぶつとぼやきながら歩く)

ヴェガ:「ところで・・ミール・・・中はどうだった・・?」
     (歩みを進めながら鋭い眼光をミールに向け、問いただす)

道中、ミールはラングレイで遭った青年との会話を思い起こしていた。
銀髪をした、どこにでもいそうな感じでありながら、ミールですら気配を感じ取れなかった男…

ミール:「あなた・・・何者?」
     (慎重に言葉を選びながら、絞り出すような声で質問を投げる)

青年:「ご覧の通り、ラングレイに住むただの人間です」
    (ぱっと手を広げてみせ、薄く笑うと観察を始める)

ミール:「ありがと。・・・・・・ゼクスでは、ないわ。」
     (質問には微妙に曖昧に答えつつ、相手の表情が変わった位置を見て、むっ、と一瞬眉をしかめた)

青年:「なるほど、いや失礼」
    (その様子に、あっけらかんとして笑う)

短いやり取りの後、青年はミールを何事も無かったかのように解放した。

ミール:「どうして・・・私を逃がすの?」
     (相手の行動に訝しみ、警戒を高めつつ尋ねる)

青年:「どうしてでしょうね?…ああ、貴女の雇い主さんによろしく…」
   (韜晦した表情で言うと、フードをかぶり直し、去っていく)

その後も、特に城内で異変は無く、後をつけられている様子も感じられなかったのだが…
もっとも、あの青年が相手では警戒するだけ意味が無かったかもしれない。

クーガ:「・・・」
    (時折ラングレイ方面や街道方面を振り返っては続く)

リリィ:「ラングレイ…」
    (ぽつりと言い、繊指を差し出すと地図で補給路のあった位置を静かになぞる)

ミール:「そういや補給路かなんかを見つけたんだっけ?」
    (どれどれ、と地図と実際の道とをてらしあわせて見てみる)

その辺りは一帯林になっているはずで、その向こうにも特に何も無い感じだ。
北の補給路の代わりに使っているとすると、随分と遠回りになる。

そして、一行は雪原を突破し、遂に翡翠の森を眼前に迎えた。
雪上をゆるやかに舞う雪が、去り行く一行を名残惜しそうに見送る。

ヴェガ:「・・・・」
    (無言で行軍を進めながらも今まで得た情報を自身の中で整理する)
    <やはり腑に落ちねぇ・・・が、今は考えてもしょうがねぇな・・・>

クーガ:「…気に入らん…何がかは解らんが…何かを見落としているのか?…
     今さら戻るわけにもいかんし…今は無事帰ることが重要か…」

     (ラングレイ方面を振り返り、一言つぶやきつつ、皆に続く)


天聖暦1048年星輝の月 翡翠の森

一行は死と隣り合わせの雪原を抜け、ようやく翡翠の森にたどり着いた。
本来ならば雪原より恐ろしい場所なのだが、彼らには頼れる小さな味方がいるのである。

クーガ:「リラは居るかね?」
     (近づく森に前の面々に尋ねる)

リリィ:「…何」
    (人影を横目に見るが視線を前に戻して)

見れば、すでに森の入り口でおーいと呼びかけつつ手を振る少女の姿がある。

リラ:「みんなおかえり!」
   (笑顔で駆け寄ってくる)

トール:「リラちゃん、ただいま〜」
    (片手を振る)

ミール:「はぁ・・・なんかものすごく久しぶりに会うって気がするわ。」
     (リラの顔を見ると、溜息ひとつ)

森の中に足を踏み入れた一行は、ようやく雪から解放された。

クーガ:「やっとコイツが外せる」
     (森の入口でカンジキを外し、ガニ股になった自分の足をさする)

ヴェガ:「やれやれだぜ・・・・」
    (森の入り口に到着すればカンジキを脱ぎ捨て、辿ってきた道
     筋を振り返る)

やはり、そこは何も変わらぬ白い世界であった。
場所によって天候も変わるのか、奥の丘は雪で白く塗りつぶされて見えない。

リラ:「ご苦労さま、…雪ひどかったでしょ?」
   (ねぎらいつつ着替えの手伝いなどしている)

クーガ:「よう、また頼むわ。リラ合流って事で陣形、夜営は以前の6人体制のとおりで」
    (リラに手をあげて挨拶しつつ、陣形等の確認)

ヴェガ:「おうよ・・・」
     (クーガの指示に対してぶっきらぼうに応え、従う)

装備を雪原から森の装備に整えなおすと、再び一行はリラの案内で帰途に着いた。
森の中は相変わらず奇妙な風景だが、さすがに食傷気味という感じだろう。

クーガ:「ここまで特にトラブルが無いと、逆に怖くなるな………あれ?」
     (ふと口に出た言葉に疑問を抱く)

トール:「どうしたの?クーガちゃん」
    (視線を向けて)

クーガ:「俺はMなんかじゃないはずだ・・・
     もはや、平穏な人生ってのに満足できない身体なのか?
     『のんびり、まったりな平穏』は俺には似合わないのかぁ〜?」

     (ふと感じた疑問にブツブツと独り言で自問自答し頭を抱える)

リリィ:「…。…」
    (悶絶するクーガを無機質な沈黙で眺めている)

リラ:「あっはっはっ…」
   (笑い転げている)

奇妙な光景、奇妙な案内、奇怪な生物などは既に特筆するまでもない。
もっとも、これで翡翠の森の外周だというのだから、内部は如何ほどであろうか。

クーガ:「んん?ガニ股が癖に!!」
     (すっかりガニ股歩きの癖がついたらしく、意識的に直そうとするが、
     無意識に戻り、矯正に四苦八苦しつつ歩いてる)

トール:「あら…その歩き方もなかなかワイルドでいいわよ?」
     (まあヴェガちゃんには…といつもの台詞を並べて)

ヴェガ:「・・・・・」
     (疲労が拭い切れないのか、行きの道程よりも言葉を発することなく
     黙々と歩を進める)

リリィ:「…」
    (面白い事など何もないというように沈黙したまま)

一行は見覚えのある道、明らかに初めて見た場所などを通り過ぎていく。

クーガ:「どうも、妖魔の支配権内から抜けて気が緩んでるなぁ…まだ安心できるほど
     安全な領域ってわけでもあるまいに…」

     (自分の意識を切り替えようと、首を振ってゴキゴキ鳴らし、気を引き締める)

ミール:「何か・・・見落としてるようなことは・・・」
     (やはり青年の言葉が気になるのか、何か違和感や
      見落としがないか考えをめぐらせながら進む)

行きの行程も短いものだったが、体感的に帰りはさらに短く感じる。
道中では、いつものように野営を繰り返しながら、翡翠の森を南へ南へと進む。

ヴェガ:「やっぱり・・・こういうのは俺の性にはあんまり合ってねぇな・・・」
     (野営時、焚き火の炎と自身の大鎌の刃を交互に眺めながらひとりごちる)

リリィ:「…そう」
    (倦怠さえすり切れた老人のように乾燥しきった口調で答える)

…そして、一行は予定日程よりも随分と早くに翡翠の森を抜けた。
馬車を預けたプルミエールの村に立ち寄り、ついでに村の食堂で食事にありつく。

ヴェガ:「フゥ・・・やっとマトモな飯にありつけるぜ・・・」
    (翡翠の森を抜け、立ち寄った村が見えればやや疲れた表情を
     見せつつも口元を緩める)

クーガ:「♪にぃ〜く ほいっ ♪にぃ〜く どんとこい ♪にぃ〜く」
     (馬車を回収した村の酒場での食事に、今までの食生活を振り返り『肉コール』)

リリィ:「…馬車は何処」
    (陶鈴のように響く感情の無い声で問いかける)

村人:「あちらでお預かりしていますよ」
   (厩舎を指し示して)

久々に食事らしい食事にありついた一行は、一泊の後、馬車と共に村を離れた。
道はあるものの森は続いており、もうしばらくは案内が必要となる。

クーガ:「馬車があるとやはり楽だな…自前の馬でも買うか…どの程度するのか知らんけど」
     (馬車を操りながら馬相手にしゃべっている)

トール:「どんな馬を選ぶか次第だけど、最低金貨1枚は固いところねえ」
    (荷台から顔をだして)

リリィ:「…」
    (ようやく取り戻したヴァイオリンケースを大事そうに抱えて座っている)

ヴェガ:「・・・・・」
    (馬車に揺られ、大鎌の柄を抱きつつ静かに眠っている)

そして、翡翠の森を離れる時が来た。
道案内の狩人ともここで分かれる事となる。

リラ:「…じゃあ、みんなまたね!これから先も気をつけて」
   (馬車から軽快に降りると、手を振って)

リリィ:「…。…またいつか」
    (習った通りの言葉を告げて)

ヴェガ:「道中助かったぜ・・・。それじゃあ・・・またな・・・」
    (リラとの別れ際軽く手を挙げ踵を返す)

トール:「またね!リラちゃん」
    (荷台から大きく手を振って)

リリィ:「…」
    (小鳥の姿が見えた気がして木々の合間から見える空に視線を向ける)

木々の隙間から葉なりがして、小鳥が馬車の上を飛びすぎていく。
小鳥はしばらく上空を舞っていたが、馬車が翡翠の森を遠ざかると、やがて森に向かって飛び去っていった。

草の萌え始めた大地を分かつ街道を、馬車は軽快に進んでいく。
厳冬の頃にガウディを出発し、今は春の足音が近づいていた。

ミール:「うっーうっーうまうま〜♪」
     (よくわからない歌を口ずさみながら、手綱を操っている)

クーガ:「ふう・・・流石に疲れがたまってるな、もう少しだ」
     (馬車の中で揺られながら、肩や腰をさする)

リリィ:「…」
    (御者台に座って流れる風景を眺める)

ヴェガ:「・・・また、季節が変わり・・・戦況が動く・・か・・」
     (馬車を操りながら、辺りの景色を見渡し漆黒の双瞳を細める)

一行が命を懸けてもたらした情報は、果たしてガウディの、人類の行く末にどの様な道筋をつけるのだろうか。
やがて、一行を乗せた馬車は、堅牢な城塞都市と化したガウディの市門をゆっくりと抜けていった…

天聖暦1048年 珀錫の月 武器塾

その日も、武器塾奥の道場からは、激しく得物を打ち合う音や気合の入った声が響いていた。
貴族も、平民も、元奴隷も、相手構わず遠慮会釈無く、共に多くの傷を作りながら稽古に励んでいる。
ただ、座して過ごすは黙って死を待つに等し―ガウディの民には、少なくともそれだけの危機感があった。
しかしそれは、確実に迫る妖魔の脅威に対する、焦慮や絶望のはけ口であったかもしれない。

人類は5年前、フィンディアで何とか一矢報いたものの、以後他の街を幾つも陥とし、人口を大きく減らした。
既に人類は妖魔に対して種として劣るのみならず、領土に劣り、人口に劣り、兵力に劣り、生産力に劣っていた。
また妖魔側は妖魔王の下に団結一致しているというのに、人類は都市ごとに孤立している有様だった。
人々の危機感は、それを本能的に肌で感じたものだったろう。
足掻くのを止めたとき、待っているのはただ”絶滅”の二文字だけなのだから…

「塾長、来客です」
書斎で幾つかの手紙を開いていたジョンは、案内の少女の背後に立つ男の姿を見ると、思わず立ち上がった。
そこには細いパイプをくわえた、白髪の混じった銀髪の初老の男が居り、ジョンを見ると軽く頷いた。
「…ああ、ありがとう。稽古に戻ってくれ」
ジョンは案内の少女に言うと、書斎の机の前に回って初老の男を出迎えた。

「わざわざご足労願わなくとも、今日にでもご報告に上がろうかと思っていた所です」
「いやなに、野暮用でちとこの辺を通りかかったものでね。もののついでだよ」

初老の男は気軽にそう言うと、ジョンのすすめに応じて応接間に入り、ソファに腰掛けた。
「さっきのは君の娘さんかい?」
「え、ええ。分かりますか?あれは妻似なんですが」
「ははは、見た目が全てじゃないよ、ジョン君。そっくりじゃないか」

本人が聞くと嫌がるでしょうね、とかわしつつ、ジョンは必要な資料をまとめて、向かい合うソファに掛けた。
「これが、偵察結果と…今回偵察に向かったメンバーです」
初老の男はジョンの提出した書類を手にすると、さっと目を通して軽くうなった。
「ふうむ…大したものだねえ。多くは遺跡に流れてただろうに」
「まず、一流どころです。期待に十二分に応えてくれました」


ジョンはしばらく経路や経費などの説明をした後、やや聞きにくそうに尋ねた。
「…上の方はどうなってます?」
「ん、慎重論がほとんどだね。先日、リオンで敵戦艦が出現したってのが効いてる」
「そうですか…」
「ただ、陛下は何かお考えのようだったな。鶴の一声があるかもしれないよ」

二人はさらに幾つかの事項について話し合い、それを終えると、席を立った。

「そうそう…例の話、考えておいてくれたかい?」
武器塾の入り口で、初老の男はジョンにちらと視線を向けて言った。
「ええ、折角ですが…」
「そうか…まあ、君ならそう言うと思ったよ。フェルト卿やワカード君は諦めないだろうけどね」

言うと、初老の男は軽く片手を上げ、年齢を感じさせない足取りで歩き去っていった。

ジョンはそれを見送ると、やや疲れた表情で息をついた。
―分に合わん事をやっているな。いや、性に合わんというべきか…
戦場での、鉄と、血と、死にまみれた極限の生活をふと懐かしく思いながら、ジョンは扉を閉めた。

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