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大陸を歩む者たち(常夏の休暇)

大陸を歩む者たち(常夏の休暇)1


大陸を歩む者たち(常夏の休暇)

舞台背景:千年都市ガウディ
天聖歴1045年、遥照の月

冒険者ギルドという場所は、どちらかというと「品の良くない場所」だと誰しもが思うところであり、その認識に間違いは無いだろう。
傷だらけで汗臭い男たちが圧倒的な数を占め、知力よりも暴力が優先されるようなイメージを持ってしまうのは、その場所が「どんな仕事でもやって来い」といわんばかりの風土を持つからである。
そんな冒険者ギルドの一番目立つ場所にそのポスターは張り出されていた。
仕事の依頼ではなく、誰かの懇願でもない……人々の手で引きちぎられる数々の依頼書の真っ只中にあって、そのポスターは明らかに異彩を放っていた。
「さぁ行こう。常夏の島ヴォンジアへ!!」
そんなキャッチコピーが書かれたポスターの中には白い砂浜と青い海と緑の森が美しく描き出されていた。


ヴォンジア島のヴォンガの街でのバカンス参加者を募集する。

募集人数:制限無し
期間:一月程度
待遇:ヴォンガとガウディの往復船の乗車券(大部屋)
条件:特に無し


ヴォンガまでの往復運賃といえば、銀貨で50枚は下らない額である。にもかかわらずその料金は冒険者ギルドが負担の上、よくよく条件を読んでいけば食費についてもヴォンガで宿をとらずに船を宿の代わりとする場合には朝と夜の二食が付くという破格の条件であった。
「あれ、一体なんだいな?」
「いや、読んだままだ。まさに慰安旅行だな」
さすがに目を丸く下のは幾人もの冒険者たちが受付を訪れると、冒険者ギルドの受付は苦笑交じりにそのように答え、自分も参加したいものだと羨ましそうにため息をついてみせた。
「ちょっと前に冒険者ギルドを含めて各所のギルドの腕利きたちが妖都サーゲオルーグとの一戦の際に多くの命を落としたこともあって、ガウディ評議会からあまりにも景気の良い褒美が贈られたというわけだ。なんでもシーポートの商会であるリュクセンドリア商会が旅行用の船を提供してくれるんだとさ」
「はぁー、景気がいいこったなぁ」
「そりゃぁもう。なんせ、冒険者ギルドだけではなく、記録ギルドや魔法学院やエリウス神殿にも張り出されているんですから。実際、日々働いている私のような者もいるわけですから参加者が数百人になるなんてことはないでしょうしね。それでも、交易用の輸送船を出しもてらえるわけですから、かなりの数が乗れるって話ですよ。実際、ヴォンガに移住を考えているような一般人もこの機会を逃すまいとかなりの数参加するようですし」
受付の恨めしそうな視線などもはやどこ吹く風と、多くの冒険者たちがその美しい海岸線が描かれた楽園のようなポスターを見つめ、そそくさと水着などの用意を始めるまでさしたる時間は必要なかったのではないだろうか。
「家族旅行に婚前旅行……あぁ、羨ましいねぇ」
カウンターに肘をついてため息を付くギルドの受付担当者は独身で、できることなら自分も今付き合っている彼女とその旅行に行きたいものだと……不謹慎なことばかりそのポスターを見ては考えてしまっていた……。


舞台背景:千年都市ガウディ
天聖歴1045年、遥照の月

楽園への誘いのような魅惑的なポスターが各ギルドなどに掲示され始めた頃、「海燕号」と呼ばれる船がガウディの港へと寄港していた。

「海燕号」……それはリュクセンドリア商会が持つもっとも大きなガレオン船である。もともと、シーポートにおいて中堅の老舗であったリュクセンドリア商会は、何隻かの船を持ち、シーポートを拠点として交易によって生計を立てている交易商会であった。
しかし、閃光の悲劇をはじめ、先の王都陥落により、ガウディの役割が大陸の交易を担う立場から、戦場の前線に位置する都市と移り変わる中で、より交易力の強化、及びガウディへと物資を運ぶ輸送力の強化を意識せざるを得なくなったシーポートにおいて、船という輸送力を持ち、また船を動かすための貴重な船員という人的資源を持ち、何よりも地味でありながら確実に仕事をこなすリュクセンドリア商会の経営は上々であった。

余談となってしまうが、大陸において妖魔との戦乱に明け暮れているガウディやシーポートの者たちであっても、「海戦」という言葉は実は耳慣れないのではないだろうか。
実際、海上において軍が激突したという話はここ数年聞いたことは無いだろうし、何よりも船という存在が時代の流れの中にあって変遷することを余儀なくされてきたところがある。
シーポートもガウディもかつては奴隷という無償の労働力があったために、ガレー船が幅を利かせていた時代があったのだが、奴隷解放宣言が行われるよりも前からすでに大海を渡るための船は帆船へと移り変わっていた。
ガレー船では奴隷の体力の問題もそうだが、どうしてもヴォンジア島との遠洋航海に不向きであり、さらに活発化する交易において、段々と船の足の速さが重視されるようになってきていた。
しかし、ガレー船の時代から変わらないこと、それは「海上戦闘における華」が魔法使いであるという現実である。確かに船には巨大なバリスタが設置されているが、その巨大なバリスタの矢に炎を纏わせることで一撃必殺の矢としたり、また、帆を魔法の力で焼いたり、逆に船を守るために敵船からの魔法を弾くなど、魔法使いの力は海戦においては必須のものとなっていた。
ただ、魔法使いの力はあくまで船同士が接舷するまでの間に限られる。船同士が接舷した時……そこから先は地上の戦闘と変わらず、あくまで武器による斬り合いとなることになるのだが、地上とは違い足場が不安定な上に、意のままに接舷するほどの技量を持つ船乗りというのは貴重であるがゆえに……接舷する前に船が沈むことは決して珍しいことではない。

……帆が大きく風をはらみ、その力に押されるように波を切り裂いて船は青い海に白い波飛沫を立てながら軽快に走り出す時、大海原と呼ばれるもう一つの世界が、船に乗り込んだ者たちの視界いっぱいに広がっていくのではないだろうか……。



PL向け情報

ミッション「大陸を歩む者たち(常夏の休暇)」の募集が開始されました。こちらのミッションは、MOHGとは別の場所に掲示板とチャットを用意して行われます。このミッションへの参加条件は、「忙殺」の対象となっていないことです。
つまり、「私生活が火の車」「仕事で尻に火がついている」「結婚生活破綻の危機」などの状態のPLの場合は「参加不可能」ということです。
また、すでに死亡しているキャラクターは参加はできません。
このミッションは、「参加表明」の後、参加が決まった方々とともに、「BBS」と「チャット」を利用して行われます。
また、CMはダイスチャットにて行われますが、その回数は進行状況などによって変わってきます。
このミッションは、「参加表明」のメールの後、参加が決まった方々にのみ「BBS」と「チャット」の場所を知らせて行われます。なお、一回目の参加表明はメールですが、その後は500文字程度の小説の投稿とBBSとCMが主となります。
また、出発日から現実時間でも約一月でミッションは終了します。

冒険者への状況説明

一回目の投稿において、下記の投稿のきまりに沿ったメールを「GMML」まで送ってきてください。

投稿のきまり

「大陸を歩む者たち」の締め切りは6月6日の22時00分までとします。

ミッションメールの宛先

GMML:planet@qw.parallel.jp

ミッションメールの書き方
(例)
件名「大陸を歩む者たち」
PL名:○○
PC名:○○=○=○○(略称:○○)
同伴者PC名:○○(PCとの関係:子供)
メールアドレス:???@???
キャラの容姿:500字以内(武具装備している様子を始めとして、自分のキャラを「活き活き」と描写してください)

1 各ギルドなり魔法学院なりの各施設の受付に申し込みをするアクションを二つ。
(例)
○○:「俺、この仕事をうけたいんだけど?」
   (受付へと張り紙を持って現れる)

○○:「こう見えても三つも精霊魔法を使えるんだぜ!!」
   (受付へと自分の技量をアピールする)

なお、このミッションにおいては家族や恋人の同伴を許可します。二回目の投稿においては海上における船旅の様子をBBBに投稿してもらうことを考えているため、後にわかりますが、GMが「NPC許可」としたスレッドにおいては家族や恋人と楽しむ様子を記載してもらって構いません。
ただし、最初の申し込みの段階で同伴者として記載されている方以外を後から追加することはできません。
また、CMが発生した場合の参加はPCのみとします。
ちょっと早い一夏の思い出を楽しんでください。


担当GM:海月

大陸を歩む者たち(常夏の休暇)2


大陸を歩む者たち(常夏の休暇)

舞台背景:千年都市ガウディ
天聖歴1045年、紅玉の月

遥照の月の下旬の募集開始から、冒険者ギルドをはじめとした各ギルドにはガウディ評議会からの恩賞であるヴォンジアへのバカンスに対する申し込みを行う者たちが訪れていた。
純粋にバカンスを楽しもうという者から、この機会に冒険の場をガウディからヴォンジアへと変更しようとする者まで、申し込む者たちにはそれぞれの思惑があるのだろう。
……それでも、蒼海と蒼穹は誰の眼にもその蒼を鮮やかに映し出していた。



レンの章

冒険者ギルドに身長が1mに満たない……身長95cm、蜂蜜色の金の髪に若草色緑の瞳、褐色の肌のグラスランナー訪れていた。どうやら喜怒哀楽が激しいらしく、くるくると良く変わる表情は見ていて飽きない。
現在はリュートを奏でて呪歌を謳うが、早く上達し魔獣の牙で出来た竪琴、ウィルベルを弾きこなせるようになりたいと願っている冒険者の名前をレンという。
今は、タートルネックのノースリーブに短パン、ブーツといった至って動きやすい物を身につけ、冬になれば、指貫の手袋にミトンカバーのついた防寒性と機能性を備えた手袋を身につけることが多く、どうやら、左腕にワンアクションで投げられるようにダガーを装備しているが、実際にはほとんど使ったことはないらしい。
グラスランナーの特徴ともいえるのだろうが、小さくて愛嬌があるので警戒心をもたれ難く、聞くべき事さえしっかりと教え込めば情報収集等の役に立つかもしれない。
仕事で出かけた先でも落ち葉を拾ったり花を摘んだりと目先の事にフラフラと流れて行ったり、心の琴線に触れた風景や情景を朗々と謳いあげたりと、よく言えば自由奔放。一緒に仕事をするなら、手綱をしっかりと掴んで居ないと直ぐにどこかへ行ってしまうのではないだろうか。
そんなレンを見かけ、冒険者ギルドの受付はどうしたのかと問いの声を発していた。

ギルド受付:「レンじゃないか。どうしたんだ?」

レン:「あのね?あのね?アレって本当にお船に泊まればお昼以外かからないです???レンも行きたい!!行きたいですぅ♪」
   (目をキラキラと輝かせ、受付にポスターの真偽を問う。大興奮、といった様相で参加表明。)

ギルド受付:「あぁ、金はかからないよ。せっかくの機会だし行って来るといいよ」

レン:「レンはお謳歌いです。えっとね?ウンディーネと、シルフと沈静とー。家路に鎮魂歌に一つ目の拳。あときまぐれと晩餐会が出来るですぅ♪連れてってくれればどんなご飯でも美味しく食べさせてあげるですよ~。」
   (ペチペチとリュートを示して胸を張る。自分が使える魔法を指折り数えて必死にアピール。)

ギルド受付:「知ってる知ってる。ちゃんとリストに入れておくから、楽しんでらっしゃいな」

ギルドの受付はレンの名前を名簿に書き入れると、紅玉の月9日の正午に出航するため、乗り遅れないように9日の朝には港の「海燕号」に乗船しておくように注意を与えてその背中を見送った。

ギルド受付:「子供を遠足に出す親のような気分だ……」

ぼそりと呟かれた受付の言葉をレンがその耳にいれることは無かった。



ヴェガの章

真っ黒な格好の人物が入ってきたのを見て、冒険者ギルドの受付は最初彼にあった仕事が何かあっただろうかと依頼書の束に目を通し始めていた。
身長は180cm程度、体重68kgぐらい。夜の闇のような漆黒の髪と瞳、不気味な程に白い肌と紅を指したような紅い唇をしており、黒で統一した装備・衣服と合わせて周りに決して溶け込まない異様な存在感を放っている。
また、獰猛な獣や猛禽類を思わせるような鋭い目つきをしており、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせている。
よく言えば黒が大好きな個性派、悪く言えば周囲に溶け込めない個性派のようであり、当然、普段他人に直に見せることはほとんどないが、上々な冒険者としての実績からもわかるように、服の上からでも、均整の取れた身体をしており、弛んだところがないのが良くわかる。筋骨隆々というより、やや細身で引き締まった感じといえるだろう。
ところどころ除く白い肌を見る限り、体毛は薄めのようである。
ちなみに、そのトレードマークは得物である大鎌と逆十字の銀刺繍を誂えた黒外套……というのは冒険者ギルドのほとんどの者たちが知っていることだった。
夏は暑いだろうなぁと思いつつ、その足元に彼とは対照的に真っ白な服装の少女がいることを認め、受付はその趣味にだけは突っ込まないでおこうと心に決めたあたりでヴェガが受付へと足を運んできた。

ヴェガ:「ヴォンジア島のバカンスに参加してえ。隣のこいつも連れて行きてえんだが……何か必要な手続きはあんのかい?」
   (漆黒の外套を身に纏い、自身とは対照的な白い衣服を纏った少女を連れて受付にやってくる)

ギルド受付:「名前だけで十分だよ。ヴェガとその連れ一名だな。一応その子の名前も教えておいてくれよ」

ギルドの受付はヴェガから少女の名前を聞くと、その名前もまた乗船名簿へと記入した。

ギルド受付:「これで受付は終わりだ。良い休暇を」

ヴェガ:「非常事態のときはもちろん護衛として働かせてもらうさ……。」
   (大鎌を軽くたたき、不敵な笑みを浮かべる)

紅玉の月9日の正午に出航するため、乗り遅れないように9日の朝には港の「海燕号」に乗船しておくように注意を与えたギルドの受付にそのように応えて背中を向けたヴェガと少女を見送りながら、受付は「うーん」と首をかしげていた。

ギルド受付:「親子水入らずのバカンスか、それともアイツはそういう趣味なのか」

心の中で呟かれた受付の言葉をヴェガがその耳にいれることは無かった。



フィアの章

白磁の肌に鮮やかな翡翠の瞳を持つフィアが受付に現れた時、記録ギルドの受付は自分がこの旅行に参加できない状況であることを煩悩の神に無言のままで抗議していた。
エルフである父の血を色濃く継いだ彼女は端正な容貌だが、穏やかな微笑みと、もの柔らかな所作のために冷たい感じはしない。シンプルなワンピースに森の深緑をそのまま映したようなローブを羽織り、同じ色の帽子を身につける。帽子の縁には銀糸で細かい縫い取りが入っているが、使い込まれたそれらはしっとりとなじんでいる。瞳と同じ色の翡翠と彫金の見事な耳飾りが唯一のアクセサリーとして顔の両側で揺れている。

若干の気後れがあるような態度で受付へとやってきた彼女に煩悩の神を崇めるギルドの受付は積極的に声をかけていた。

ギルド受付:「こんにちは。どうされましたか?」

フィア:「こんにちは。……張り紙の件、こちらで申し込みは可能でしょうか……。」
    (室内を軽く見渡し、やや躊躇いがちに受付に歩み寄る)

ギルド受付:「えぇ、大丈夫ですよ」

フィア:「……よかった。よろしくお願いします。」
    <後は……出たとこ任せ、というところでしょうか……>
    (ほっとしたように表情を和ませ、一礼する)

ギルドの受付はフィアの名前を名簿に書き入れると、紅玉の月9日の正午に出航するため、乗り遅れないように9日の朝には港の「海燕号」に乗船しておくように注意を与えてその背中を見送った。

ギルド受付:「見たい。とても見たい。そして記事とかにしてガウスポに売りたい。だが……そんなアラレモナイ姿になってくれるのか。そこが問題だな」

心の中で呟かれた受付の言葉をフィアがその耳にいれることは無かった。



アウゴの章

杖に身を預け、漆黒のローブに身を包むその姿は、見る者には何らかの魔法の行使者であると、容易に想像させる。
深くかぶったフードからは、小麦色の肌と鋭く光る二色の瞳が覗くのみで、種族最大の特徴である長くとがった耳は隠れてしまっている。
そして、歩く際にはかすかに足を引きずるように見える。
そんな姿を見て、魔法学院の受付はその人物がアウゴであることに気が付いた。

アウゴ:「……」
    <好都合だな……親父殿のツラでも拝みに行くか……>
    (足を引きずるようにやってきた学院の受付で、貼り紙に目を止める)

魔法学院受付:「あぁ、見てる見てる。張り紙見てるよ。これは受付に来るかねぇ」

アウゴ:「この船、まだ空きはありますでしょうか?空きがあれば乗船を希望いたします。」
    (例によって、学院内では猫をかぶり、丁寧な口調で受付に希望を告げる)

魔法学院受付:「空いてるよ。せっかくだから楽しんでおいで」

魔法学院の受付はアウゴの名前を名簿に書き入れると、紅玉の月9日の正午に出航するため、乗り遅れないように9日の朝には港の「海燕号」に乗船しておくように注意を与えてその背中を見送った。

魔法学院受付:「確か、あいつはヴォンジア出身だったよなぁ。いい里帰りの機会なのかもしれんな」

心の中で呟かれた受付の言葉をアウゴがその耳にいれることは無かった。



舞台背景:千年都市ガウディ
天聖歴1045年、紅玉の月九日

楽園への船……「海燕号」の帆が張られた。真っ白な帆は青い海に美しくその翼を広げているかのようで、出航への期待に誰もが心を躍らせていた。
乗り込む者、見送る者……ガウディの港には多くの人々が溢れていた。
天気は快晴。蒼海と蒼穹に浮かぶ真っ白な船は、美しく何よりも気品に満ちているかのようでもあった。
出航前にもかかわらず、すでに甲板には食事を載せたテーブルやパラソルや椅子が置かれまるで豪華客船のようにお客様への奉仕を開始していた。

ある者はさっさと薄着に着替えて椅子に腰掛けて酒を飲みながら太陽を楽しみ。
ある者はこれ幸いと船内の探検にお出かけをはじめていた。

……そして正午、今、帆が大きく風をはらみ、その力に押されるように波を切り裂いて船は青い海に白い波飛沫を立てながら軽快に走り出した。大海原と呼ばれるもう一つの世界が、船に乗り込んだ者たちの視界いっぱいに広がっている。



PL向け情報

ミッション「大陸を歩む者たち(常夏の休暇)」が開始されました。今後の進行は設置されたBBSを利用していただければと思います。
なお、「野営地」とされているチャットについてはPC用の交流の場として利用していただければと思います。
状況はその場にあわせて自由に設定していただければと思いますが、基本は甲板なり船内の食堂なりとしていただければと思います。
たまにはNPCが出現することもありますが、一応、PCが連れているNPCについては「常識の範囲内」でそのPCのPLさんがロールを行っていただければと思います。

なお、この「海燕号」についてですが、冒険者用に以下のような設備が用意されています。

・PCの宿泊場
60人くらいがいる大部屋です。100人くらいは入れる広さがあるため、比較的ゆったりとしています。
また、家族連れなどもいるため、一人ひとりの空間がきちんとカーテンで区切られる形で用意されています。
NPCを連れていない場合には、イメージとしては寝台列車の二階建てベッドを一人で占拠していると思ってください。

・食堂
船乗りたちをはじめ、今回参加している人たちが食事をする場所です。何時行ったとしても酒や食事が用意されています。
一度に100人くらいは入れる広さがあり、テーブルと椅子が綺麗に並んでいます。

・甲板
まるで豪華客船のようにテーブルや椅子、そしてパラソルなどが用意されています。食堂から食事や酒を持っていって昼夜問わずに楽しむことが可能です。

・その他
個人用の客室も用意されており、そちらを利用している者たちもいるようです。ただし、個人客室をふくめ、乗組員用の施設については立ち入り禁止となっており、入るためには通行証が必要となります。


担当GM:海月

大陸を歩む者たち(常夏の休暇)3


大陸を歩む者たち(常夏の休暇)


舞台背景:ヴォンジア島ヴォンガの街
天聖歴1045年、紅玉の月

ヴォンガの街の総元締めをしているライカ=ストライクスはガウディから到着した「海燕号」の姿を眺め、そしてそこから降り立ったたった一人の女性の姿に釘付けになっていた。その人物はある事件以降島の恵みが年々失われつつあるヴォンガの……否、ヴォンジア島そのものの未来を担うかもしれない存在であり、その存在自体がエルウィンの者たちですら無視することも、そして軽んじることもできない存在に他ならなかった。
もともとヴォンガの人口の中心は人間ではなく、エルフが大半であった。そして、ヴォンジアの熱帯雨林帯のすぐ近くにあるこの街はガウディやシーポートを始めとして海上交易の港として非常に発達している街である。
それはつまり、ガウディやシーポートとの交易によって人間の暮らしが成り立っていることを示していたのかもしれない。ただ、自給自足ができないのかといわれればそういうわけではなく、どちらかというと人間と他種族が共存するための制度のようなものがガウディやシーポートからもたらされているという方が正しいのかもしれない。
もともと熱いくらいに温暖な気候であるために、漁港としても、海上交易の要所としても発達を遂げる事ができた街でもあり、前述したようにこの街の人口比率はエルフが高く、あとは交易商人の人間をはじめとした観光客たちともいわれている。
この街のすぐ近くに熱帯雨林があることからも、薬草の産地としても有名であり、また、海の恵みを薬草と混ぜ合わせたエルフ独特の医薬品などもあるといわれていて、それを狙った交易商人たちがこの街へと訪れているのが実情だ。
実際、ガウディのハイデルン商会とのナゥラルという香辛料の交易からもたらされる費用だけでも相当な額に上っており、それ故にヴォンガの冒険者ギルドはわざわざハイデルンとの交易用に人員の配置を行っているほどなのである。
「ようこそ。ヴォンガへ」
「こちらこそ、出迎えありがとうございます。改めてお互いに名乗りあう必要はなさそうですね」
ライカは目の前に立つ金髪碧眼の女性を笑顔を持って出迎えていた。女性の隣には男性が一人立っているだけでほかには護衛のような存在は見受けられなかったが、護衛を付けていないのはライカも同じだった。
「こちら、私の今回のことを手伝ってくれる者です」
女性の紹介に応える男性を見て、ライカは「なるほど」と頷いていた。ライカ自身も何度か隣に立つ人物と話をしたことがあり、彼がヴォンガの冒険者ギルドにおける顔も知らないが名前だけは知られている有名人であることを知っていた。
「……色々と騒がしいのはバカンスを楽しむ冒険者たちだけではないようですね。出航以降、あちこちの方面の「住人」たちがこれだけ賑わいを見せるとは思いもしませんでした。なにより、外に出たいと騒ぐこの方をとめるのが一番疲れたのはもはや説明する必要もないことでしょう」
「失礼を承知で申し上げれば、親子に見える年齢差なので、口喧嘩もあまり違和感は無かったことと思いますよ」
ライカの一言に、女性の傍らに立っていた男性は深々とため息を漏らし、女性はくすくすと笑い声を漏らしていた。
「で、本当にフェイルフェンの森の件……可能なのでしょうか?」
止まっていての会話も……ということなのだろう。ライカは「ついてきてください」と告げるとゆっくりと船から離れるべくゆっくりと歩き出していた。
「大丈夫。きっと森は還ってくる……選ばれたのが私だったのは正直意外だったけど、やっぱり儀式とかそういうのには処女性って大事なんだって今回の件で思い知らされたわ」
あけっぴろげなその一言に、ライカは絶句し、隣に立つ男性は「やれやれ」とまたしても深いため息を漏らしていた。
「森にはハミルトンが先行しています。翡翠の森をはじめ……森守の一族だけではなく、本当に多くの者たちの意思のたまものなのでしょうね」
「ほんと、毎夜毎夜私の夢の中に出てこられても困るのよ。宵闇直後のガウディの時の借りを返せーって言わんばかりに森の良さを夢の中で語り続けられる私の身にもなってほしいわ」
「その数々の夢に感謝しましょう。私も森を護る一族だからこそ、エルフが一番多いこの街の領主をしているわけですから……正直、あの森が戻ってくるその日を見られるのならばいかなる労も惜しみません。解放都市同盟の意図が見返りとしてこのヴォンジア島の食料をはじめとした物資にあるとしてもです」
その言葉に偽る感情は微塵も見受けられず、ゆえに、ライカが今回の出来事のためにヴォンジア島全体をどれだけまとめているのかということを窺い知ることができたのではないだろうか。
解放都市同盟とヴォンジア島……お互いに政治的なやりとりの上に何かが動いているのは確かだった。
けれど、政治的なやりとりやお互いの利益があったとしても……何を犠牲にしてもやらなければならないことがある。ライカはそう思っていた。



舞台背景:ヴォンジア島 旧フェイルフェンの森
天聖歴1045年、紅玉の月

その森には死だけがあった。
まるで枯れゆくのを待つような……そんな瘴気に満ちた死の森へと姿を変えていた。
かつては緑多く、そして多くの恵みを与えてくれた森。
けれど……その森は多くのエルフたちの集落と共にかつての姿を失った。
すべてはヒトの業によってなされた悲劇。
すべてはヒトの欲によってなされた喜劇。
……森は死を抱き、静かに眠り続けていた。



舞台背景:古エルフの都 エルウィン
天聖歴1045年、紅玉の月

陽光の恵みと水の恵み、そして種を運ぶ風の恵みを受け、大きく巨大に育つその古エルフの都エルウィンにおいて、幾人かの者たちが集まって遠くガウディからその船が出港するところからずっと観察を続けていた。
「シェラーフェドラフが枯れたのはヒトの業による所業。だが、そのヒトの業を人が救おうとしているか」
もはや、人としての姿ではなく、樹木のようであると言ったほうが良いだろうその人物の言葉に、その場に居合わせる者たちは声もなく、ただただその神聖さに見入っていたという方が良いのかもしれない。
「フェイルフェンの森の復興……それはもはや失われたと思われていた遠き思い出を思い出すようなものだ。全てのものは過去から学び、そして未来へ進める。けれど失われた故人がもう一度穏やかに微笑んでくれるのであれば、その微笑のために如何なる労も惜しまないだろう」
告げるその声の主にはきっと見えているのだろう。船そのものすらも包み込むような慈愛に満ちた存在が。その慈愛が世界に点在する全ての彼の存在の総意であることを示していることが明らかで、それゆえにもはや涙が零れ落ちそうなまでにその目にたまっていた。
「例え、同じ者でないとしても……新しく芽吹くその奇跡に、我らは感涙せずにはいられないのではないだろうか。その赤子を抱きたいのだから」
まるで、孫が生まれる時の老人のように……血脈が継がれることの喜びが、その言葉には溢れていたのではないだろうか……。


担当:海月

大陸を歩む者たち(常夏の休暇)4


大陸を歩む者たち(常夏の休暇)


舞台背景:ヴォンジア島 ファイルフェンの森
天聖歴1045年、紅玉の月

そこは、かつて清浄で透明な空気に満たされ、多くの生き物たちに満ちて生命の楽園と呼ぶこともできるほどに美しい森だった。
ある教典の一説には「竜の眠る地ヴィゼット」の名前の由来について語られており、このファイルフェンの森はそのヴィゼットと並び竜の眠る地として有力な伝承が語り継がれている森であった。
「現在、竜の眠る地とされているのは此処ファイルフェンの森と、もう一箇所、ヴィゼット。竜に例えられることの多いマルスディールでも、特に多いのは木々の中で眠る姿よね。それは、神々の時代の終わりに、マルスディールが森の奥で竜の姿のまま永き眠りについたという神話を元にされている……という話があるけれど、この森の様子では竜も眠りどころじゃないでしょうね」
周囲を見渡しながら告げるのは金髪碧眼の女性であり、その隣には全身を一片の空気にも触れさせまいとするかのように着ぐるみのような防護服に身を包んだ人物であった。二人を見れば、彼等の周囲にある薄紫色の靄が意思を持っているものだということを知るのは簡単なことだっただろう。
金髪碧眼の女性……アリネスの周囲からは靄が避けるように道を作り、彼女の周囲にはまるで彼女自身から発せられるかのような清浄な空気が満ちて不可思議な空間を作っており、もう一人の防護服の人物の周囲には薄紫色の靄がまとわり付いてまるで歩みを意図的に妨害しようとしているように見えた。
「それにしても、20年だっけ……徐々に徐々にだとはいえ、ここまで瘴気の森が拡大しているなんてね。それも、ヒトがイグゾスを奪ったからだってのは聞いているけれど、これは宵闇の時とは比べ物にならないくらいに酷いわね」
アリネスの言葉のとおり、彼女たちの周囲に広がっているのはもはや清浄な森とは呼べぬ瘴気に満ちた死の森であり、竜の眠る地と伝承に伝えられた森の姿とは思えぬほどの惨状というほかになかった。
「それにしても、大丈夫かしらねあの二人……てっきり私がいればなんとかなると思ったけれど、そんなに甘い状況じゃなかったってことね。ちょっと反省だわ。生きて会えたら謝らないといけないかも……もちろん、知っていて止めなかった貴方はもっと罪が重いと思うけど」
「……止めましたし、貴方一人で行くようにと行ったはずです」
「自分だけちゃっかりそんな装備に身を包んでおいて説得力が無いわね」
防護服を着ているがゆえだろう。くぐもった声を発した存在はそれ以上の問答をする気がないのか、それとも声を発することすら避けているかのように黙ってアリネスの後ろを歩き続けていた。
返答が無いことにさらに言い募ることは無く、アリネスは一歩一歩導かれるように歩きながら、周囲の風景を改めて見返しながら自分の胸の中に心地よくない感情が満ちはじめていることを悟らずにはいられなかった。
本来ならば幹の色は茶色。木々の葉は緑のはずだ……しかし、この森の木々の幹の色はまるで石化が始まっているかのように灰色で、葉はついておらず命の循環を感じることもできないほどに全ての木々が死に絶えているように見えた。
木々の死滅は当然この森に満ちていただろう数多くの生命を遠ざけ、森が育むべき命の循環そのものを止めてしまっていた。
そして、二十年をかけて森の死滅は徐々に広がり、再生の目処すらもたたないほどの砂漠とかしてしまっている。
「だから私が呼ばれたんだろうけど……宵闇の時といい。実感が無いわね。それに今回はことがことなだけに、この森の再生にガウディの民の今後が関ってくる」
今回の旅の目的がこの森の再生であることは自分の夢の中に出てきた者たちの言葉から知ってはいたが、それを成すために自分が何をすればよいのかなどの具体的な方法はわからないままであった。
「これじゃ、まるで道具よね。自分の意思ではなく、自分の使い方を知っている世界という存在にいいように使われている……ガウディに帰れるのかしらね」
それはアリネス自身の本音であり、暗雲とした未来に対する不安そのものから出た言葉であったのだろう。
しかし、その言葉を聞き入れたとしても、彼女の後ろについて歩く人物は回答を返すことは無かった。

……やがて、歩き続けた二人の前から薄紫色の靄が晴れる。そして、靄の晴れた場所には一本の大樹が天高くそびえ立ち、その傍らには一人のエルフの男性が立っていた。
ガウディの冒険者ギルドにおける幹部であり、高名な冒険者であるその男の名をハミルトン=ツァイベルといった。



舞台背景:ファイルフェンの森 大樹のふもと
天聖歴1045年、紅玉の月

「うわ。馬鹿ですか貴方」
ハミルトンの第一声はアリネスにではなく、彼にしては珍しい驚きの一言を伴ってその連れの人物に向けられた。
「……脅迫されたのですよ。でなければこんなヒトに敵意を持った森になど足を踏み入れたりしません。それにしても、良くここまで準備できましたね」
「えぇ、さすがに私一人では難しいところでしたが……森守が集っていますからね。何より各地の大樹だけではなく、エルウィンの方々までが今回の一件については力を貸して下さっている。で、その着ぐるみのような防護服は脱がないのですか。多分、ここなら大丈夫ですよ」
「もう少し状況を確認してからにします。ここは選ばれた者と森守以外に対して何をするかわからない森ですから」
「ご苦労様ハミルトン。で、これから私は何をすればよいのかしら」
ハミルトンと防護服を着込んだままの人物との会話の間に割り込んだアリネスに対し、ようやくハミルトンは向き直り、そしてその碧色の瞳をじっと見つめた。
「【碧の血統】としての森への来訪に【森守】として感謝いたします」
アリネスの碧の瞳を見つめた後、ハミルトンはまるで神聖なものに対してするように深々と頭をたれて印を切っていた。
「もうすぐ【祭壇】が発現いたします。その後、貴方にはシェラーフェドラフの実である「紅玉の実」から作られた神酒を飲んでもらいます……それだけです。多分そこから先は貴方自身の体の中に流れる血と紅玉の実に導かれることになるでしょう。もしよろしければこの周囲を眺めてきてください。貴方が再生させようとしている大樹について見知っておくことはきっと貴方のためになると思いますよ」
「そうね。私も見ておきたいし……それにしても立派な樹だったのでしょうね」
見上げてみればその樹は本当に天高くそびえ立っている。今はその幹も灰色となり、葉もつけていないが、人が二十人くらい手をつないでぐるりと囲まなければならないようなその大樹には今も貫禄が残されていた。
「きっと……この森全体の親のような存在だったのでしょうね」
「えぇ。そう、ヴォンジア島全体の親のような大樹でした」
アリネスは幹に手を付き、そしてその幹に耳をあてつくづくこの大樹が生きていた頃の姿を見たいと思う。目を閉じれば思い浮かぶその雄雄しき姿を思いながら、ふと自分の目から涙が零れ落ちていることに驚いていた。
「これを感傷っていうのかしらね」
軽く涙を拭い、そして二人から離れるように彼女は右手の平を幹に付いたままその大樹の周りを一周すべく歩き出していた。
やがて、そのアリネスの姿が視界から消えた頃、それを見計らったかのように防護服の人物が声を発した。
「……で、貴方はガウディ側なのですか。それとも森守としての側なのですか」
「…………」
ハミルトンの沈黙に、防護服の人物はさらに言葉を重ねた。
「……はっきり言いましょう。貴方はアリネスをガウディに帰す気があるのですか」
「やはり……馬鹿ですね」
ハミルトンの目に剣呑な色が浮かんだがのはその時だったのではないだろうか。
「アリネスに脅迫されなくても来るつもりがあったからその防護服を用意していた……と考える方が自然。敵となるのであれば……相応の報いがありますよ。貴方が一体何の側につこうというのかまでは問いませんが、少なくとも儀式が終わるまでの間は利害が一致しているはずですのでどうこうはないでしょうが」
一瞬……二人の間に剣呑な雰囲気に満ちたが、しかしその雰囲気は潮が引くように消えていった。
森に新たな気配が到来しようとしていることを二人とも敏感に感じ取っていた……


担当:海月

大陸を歩む者たち(常夏の休暇)5


大陸を歩む者たち(常夏の休暇)


舞台背景:ヴォンジア島 ファイルフェンの森
天聖歴1045年、紅玉の月

崩れ去った瓦礫が積み重なったようなその場所に、一本の苗木が顔を出していた。瓦礫のように見えるのは良く見れば落雷にでも打たれて砕かれてしまったかのようなおびただしい数の樹木の破片であり、それがただ一本の大樹が砕け散った姿だと言ったとして信じる者がどれだけの数いることだろう。
だが、大樹の破片を苗床として……その一本の苗木は空から降り来る陽光を全身に浴びてすくっと真っ直ぐに立っていた。
何よりも驚くべきなのはファイルフェンの森を死の森として如何なる生命をも受け付けないかのように隔離し、徐々にその勢力を広げて死の森を拡大させ続けてきた原因といわれてきた薄紫色の瘴気のような靄が姿を消していた。
「……これが、ヴォンジア島を守護する新しい神樹か」
「そうです。ただ、森守の庇護と各地の神樹の援助があるとはいえ、まだあと数年から数十年は強固な結界の中で護らなければその力を取り戻すことは無いでしょう」
「……ファイルフェンの森が元に戻るにも同じだけの時間がかかるわけではないでしょうに」
「そうですね。20年をかけて失われた森ですが、神樹が芽吹いたとなれば……もしかすると一年以内に復興できるかもしれませんね。それほど、神樹の力は大きい。その力が大きければ【建造】に100年が必要な森ですら、一夜で復興させるほどですから」
防護服に身を包んだ人物とハミルトンの会話は淡々とした問答でありながら、何処か剣呑な雰囲気を孕んでいた。
「ちょ……と」
そんな二人の雰囲気など感じ取った様子もなく、漏れた声に音が出るような速さで振り向いたのはハミルトンであった。防護服の人物もまたその視線を声の方へと向けた。そこにいるのは膝を突いたまま動けないでいるアリネスであり、すでに儀式は終わりを迎えているにもかかわらず、立ち上がることも含めて指一本動かすこともできないほどの疲労に犯されているようだった。
それにしても……よくよく見ればその体は間違いなく一回り以上小さくなっている。そして、その顔は疲労からだけではないだろう、この二時間程度の時間の中で年頃の女性とは思えないほどのやつれ方をしていた。
顎骨がはっきりとわかるほどのやつれ方は、良く見れば二の腕などにも付いていたはずの女性らしいふっくらとした部分だけでなく、全身に及び……それが彼女の体を一回り以上小さくみせているようだった。
その様子は、まるで食事を与えられないで殺される餓鬼を連想させるほどに酷いものだったのかもしれない。
「良く頑張りました。多大なる感謝を」
ハミルトンはそのように告げ、彼女の傍らにしゃがみこんで彼女の身を支えようと手を伸ばした時……彼はまるで雷にでも打たれたかのような衝撃を受けてばっと身を翻していた。
「……やっぱり」
ぼそりと防護服の人物が呟いたのは、一本の苗木がぼんやりと光を放っていたから。しかしながら、そのぼんやりとした光はハミルトンが彼女から離れることでゆっくりと消えていった。
その様子をどこからか眺めていた存在がいたのだろう。森守が張った結界の中にさわやかな風が吹き込み始めていた。
ハミルトンはすくりと立ち上がり、防護服の人物はそれまでと変わらない体勢のまま、その風と共にやってくるだろう人物を待ち構えていた……



舞台背景:古エルフの都 エルウィン
天聖歴1045年、紅玉の月

その都市はまるで杯のような大樹そのものであり、その内部を含め、杯の淵の部分には多くの緑が溢れていた。
何よりも驚くべきなのは杯の器の部分には大量の水が溜まっており、その水は聖杯に注がれる命の水と呼ばれるほどに清浄で、古エルフたちが永遠に近い時間を生きるのはその水と共に暮らしているからだということが伝承として伝えられていた。
ただ、そのエルウィンという大樹の都市に辿り着く者は存在しておらず、その存在は神聖都市エノクやキャメロンと同じく実在が定かではない都市の一つといわれていた。
「……しかし、よくあの賢人たちが許しましたよね。私たちの逗留を。貴方だってここに来ることは滅多に許しがでないでしょうに」
「【胎樹】された【碧の血統】の存在を、ここの賢人たちが何の挨拶もせずにヴォンジア島から帰すとは思っていませんでしたのでさして意外ではありませんでした。ただ、意外だったのは貴方を含めた方々の逗留を許したという事実の方でしょう。それだけならまだしも……とはいえ、【碧の血統】の意思ですからね。その意思を無視できるはずもありませんか」
吹く風も心地よく、その風には緑の香りが多分に含まれている。そんな場所でその二人は椅子に座り、お茶を飲みながらゆっくりと話をしていた。
そこからの景色はまるで山頂からの風景のように……まるでヴォンジア島全体を見渡せるかのような高所からの風景だった。
「神樹の復活により、年々弱まっていたこの都市の結界も力を取り戻すことでしょう。そういった意味でも、ここを統べる賢人たちの感謝の度合いは大きいのでしょう」
ハミルトンはお茶に口をつけながら、そこからの風景をどのような気持ちで受け止めていたのであろう。
例え森守であったとしても、この古エルフの都市へと足を踏み入れることは許可がなければ不可能であり、それはこの都市の持つ力の巨大さゆえに当然といえたのかもしれない。
強大な結界で護られ、その姿を一般に晒さない都市にはそれだけの理由があるものだが、この都市にも当然のように多くの秘密と明かす事のできない隠された真実が閉じ込められていた。
この都市を統べる賢人たちは天聖暦よりも古くからの歴史の真実を知る者たちであり、ここに残されている記録の多くは大陸では幾多の戦争を初めとした騒乱の中で失われていったものが多い。
一説には、この島を大陸から切り離して歴史を護ったという説があるほどだ。
……と、二人の耳に何かしらの声が届けられたようだった。
「……なるほど、あれから二日。眠っている方々が目覚めますか。どうせそのまま追い出されるのでしょうから、迎えにいきましょうか。貴方はどうせ私たちとは別の方法でガウディへ戻るのでしょう?」
「見送りくらいはするつもりです。アリネス様にお召し物をお持ちする役割もありますから」
「……「様」ですか」
空となったお茶のカップをテーブルにおいて二人は立ち上がっていた。その目にはどこまでもどこまでも青い空と、どこまでもどこまでも美しい森の緑と、どこまでもどこまでも美しい青い海が一つの視界にとらえられていたことだろう……



舞台背景:古エルフの都 エルウィン
天聖歴1045年、紅玉の月

その空間を例えるならば露天風呂のようなものだったのではないだろうか。大理石の巨大な風呂の変わりに、名も知らぬような樹木が20M四方はありそうな巨大な浴槽の役割を果たしていた。
そんな場所で、アリネスはお気に入りの水着を身に着けて長椅子に横たわり、足だけは水に浸し、そして冷たいハーブ茶を飲んでいた。
「それにしても絶景よねぇ」
自分専用に用意されたその区画から見える風景は、空も大地も海も……まさに全てを一望するためにだけ用意されているよな空間だった。
つい先日のあのやつれ果てた姿はどこにいったのか、すでにアリネスの姿はヴォンジア島に訪れた時のように若さと美貌に溢れたものに戻っていた。
……と、アリネスの耳に何かしらの声が届けられたようだった。
「あら、目覚めるみたいね。じゃぁ、このまましばらく待とうかしら」
そう呟いたアリネスが視線を向けた先には全身を水に浸した二人の女性が自ら頭だけを出して横たわっていた。
その睫が微かに動き始めている……どうやら、目覚めの時が近いようだった……


担当:海月

大陸を歩む者たち(常夏の休暇)6


大陸を歩む者たち(常夏の休暇)


舞台背景:ヴォンジア島 ヴォンガ
天聖歴1045年、紅玉の月

その日、数十秒であったがヴォンガの街からその巨大な聖杯の姿を見ることができたという。
まるで澄んだ空気の日に遠くの山脈が見えるかのように、その聖杯の如き大樹の姿は遥か遠くに浮かび上がり、そして、見つめる者たちの心を奪ったのではないだろうか。
それほどまでに、蒼穹にそそり立つように生まれ出でたその大樹の姿は美しく、何よりも神秘的であり、そして、聖杯の如き姿のその淵から陽光の煌きに照らし出されて滝の如く流れ落ちる大量の水は、間違いなくこのヴォンジアという島の大地へと命を与える存在そのものように見えたことだろう。
人々は嘆息とともに、その数十秒の光景を食い入るように見つめ、そしてまたその神秘的な姿を仰ぎ見ることを生活の中における一つの楽しみとしようとしたのではないだろうか。
そんなことがあった日からさほど日を置かず、ヴォンガの街の領主であるライカ=ストライクスは自分の屋敷に滞在しているアリネス=フォン=サーゲオルーグの部屋を訪ねていた。
「明日ですね。海燕号でのガウディへのお戻りは」
「そうね。解放都市同盟としての約束は果たしたつもりよ。今度は貴方たちが約束を果たしてもらう番になる……それはよろしいかしら?」
「全力を尽くさせていただきます。解放都市同盟への支援についてはすでに準備をはじめているところです。もちろん、本当の緊急時における受け入れ等についてもいただいていた内容について私の名前で署名をさせていただいています。これがその調印書になります」
告げたライカの手には蝋で封印された調印書があり、差し出されたそれをアリネスは受け取ると、ようやく一つの仕事が終わったとでもいうかのように「ほぅっ」と一息を吐き出して肩の力を抜いていた。
そんな様子を見て、ライカはその口元に穏やかな笑みを浮かべていた。
「私が言うのもおかしな話なのかもしれませんが、本当にお疲れ様でした。あの日、この街からエルウィンが見えたのは多分、あなた方がエルウィンから外へと出る時に結界を越えたからかと。そのように考えると、20年前に神樹が失われ、さらに昨年の神滅の出来事により世に「神理の種」が落とされて以降、年々エルウィンを護る結界が弱体化していくなかで、古エルフの賢人たちが数多くの手を打ち続けていたのだということが良くわかりますね。それほど、エルウィンの姿を見る機会は多くなっていました。今回の件により、もうこの街からエルウィンの姿を見ることはできなくなる可能性が高くなりますが、それこそがヴォンジアの民としての平穏を示すのだと私は考えています」
ライカ=ストライクスの言葉に、アリネスもまたふっと笑みを零していた。
「森多き土地に住まう民として、貴方の英断と貴方の尽力に心より感謝します。私たちの忠誠は解放都市同盟によりも、貴方と貴方の姉妹様、そして貴方の弟様に……サーゲオルーグの名を持つ者たちにあると思っていただいても間違いではありません」
真摯な顔つきとなって告げたライカに対し、アリネスは笑みを浮かべたまま首を振っていた。
「本当は私たちの存在など無くても良いのよ。……いえ、本当は【血統】とか、そういうものに力があってはいけないのだと思う。人の価値は私であっても貴方であっても本来はその生き様によって変わるものであって、生まれ持ってしまったモノによって価値が変わってしまってはいけないものだと思っているのだけれどもね」
「けれど、間違いなく、この世界にはその存在だけで「価値」となれる方々がいらっしゃいます。まさに貴方様のように」
「それが政治の駆け引きに使えてしまうのだから……あまり良い性質ではないわね。もちろん、それがあったからこそ、今回はこんな政治的な駆け引きができたのだけど……つまらない愚痴を聞かせてしまったわね」
アリネスの謝罪の言葉に、ライカは黙って首を振った。
「蒼い海、緑の森、白い砂浜……本当に楽しい時間を過ごさせてもらったわ。けど、今度は本当にバカンスだけを楽しみにこっそり来たいものね」
「心より、お待ち申し上げております。このヴォンジアの森と大地を代表して……」
ライカは深々とその頭を垂れる。それはこの島に海燕号で現れた時に交わした挨拶とはもう異なってしまっていることを知りながら、アリネスは応えるためにその口元に作りなれた王族としての笑みを浮かべることで応えていた……



舞台背景:千年都市ガウディ 海燕号
天聖歴1045年、蒼碧の月

蒼碧の月が中旬になろうとした頃、ヴォンジア島のヴォンガへとバカンスの旅に出ていた海燕号はその役目を無事に終え、多くの人々がガウディでの日常へと戻っていった。
そんな海燕号から下船して行く者たちを見送り、やがてバカンスを楽しんだ者たちがいなくなった頃、この船へと幾人の者たちが乗船を始めていた。
乗船するために乗りつけた馬車に対する警護の騎士の数などからして、乗船を始めた人物たちがこのガウディにおいても要職にある者たちであることを窺い知ることは容易だったのではないだろうか。
そんな海燕号の一室において、食事と共に会合が始まろうとしていた。どうやら乾杯の音頭をとるのは黒髪黒目の青年のようだった。
「姉上の無事の帰還に」
青年は張りのある声で告げると、その手にもった杯を高々と掲げて、その声に唱和するとともに多くの者たちがその手に持った杯を掲げていた。
「皆々様からのお言葉に感謝いたします。当初の目的でありましたヴォンジア島からの支援の話を含め、調停については解放都市同盟からの要望を全て受諾いただきました。こちらがその調停書になります」
そのように告げたのはアリネスであり、アリネスはその手に持っていた調停書を自分を姉上と呼んだアンガルスク=フォン=サーゲオルーグへと手渡した。
それは政治的な一つの儀式であり、けれど大切な儀式であった。
アンガルスク二世はその調停書を受け取ると、それを傍らに控えているノーヴァ卿へと手渡した。
「お役目、ご苦労様です」
「そうね。でも、ここからは貴方の役目よ。私が【碧の血統】であったということは、やはり貴方は【黒の血統】、姉上たちもまた、それぞれの【血統】である可能性が高いわ……それが良いことなのかどうかといわれれば、私は「悪い事だ」と思わないわけにはいかないもの」
近寄ってきた弟にだけ聞こえるように耳打ちすると、太陽とも称されるその弟は苦笑いを浮かべていた。
「それもこれも全部ひっくるめて……皆が笑って過ごせる世界になるように努力するだけだよ」
すっかり砕けた口調となっている弟を慈愛に満ちた笑顔で見つめ、そしてアリネスはその言葉にいつの間にか弟は自分よりも多くを身につけ、そして王となったのだということを改めて認めていた。
「ねぇ、お願い。私より先には死なないでね」
そう言って手に持った杯を弟の杯に「チリン」とあてた姉の顔を見て、アンガルスクはけれど頷くことはなかった。
王となる決意をした時から、彼は自分が親愛を注ぐ者たちに対してだけはできない約束も、そして叶わない嘘をつくこともしなくなっていた。
だからこそ、頷かず、無言を通す弟を……アリネスはぎゅっと静かに抱きしめた。
見守る者たちは無言のままその光景を見つめ……そして、当事者たちは黙って目を閉じていた……。



舞台背景:古エルフの都 エルウィン
天聖歴1045年、蒼碧の月

その船がガウディの街へと到着するまで見守り続けていた者たちはようやく緊張の糸を緩める日が来たことを感じていた。
「御方はあの街へと戻られたな。できることならば、この場所にいていただきたかったが……御方の意思を変えることができぬ以上、我らはただただ見守るのみ」
その言葉にその場にいた一同が同意のように頷きを返した。
「【碧の血統】、【樹胎し胎樹せし者】、【大樹の母】……やはり、世界の真実は、【神実の理】の伝承は受け継がれ続けているのだな。ならば、その実を落とした存在をなんとすべきかとも思ったが」
「手を出すべき時期が来れば介入するのみかと。そして、介入するということは、それはこの世界への反逆が……【パラダイムシフト】の可能性の発現に他ならないでしょう。少なくとも我々が介入する以前に、南の者たちが動き出すと思います」
「確かに。それも踏まえて……あの街への監視は続ける必要があるだろうな。御方のためにも」
その言葉に一同は再び頷きを返していた……


担当:海月

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