星詠の丘へ(第一話)
月の無い、満天の星空が広がる夜。
エリウス神殿内にあるネティア聖堂の屋上、そこからさらに一段高くに設置された「星詠台」。
そこへ至る階段のふもとに、一人の甲冑姿の男が行く手を遮るようにして立っていた。
今しも、「星詠台」ではネティアの高神官リーナによる、『星詠み』が行われている筈だった。
神殿騎士の末裔である彼の役割は、それを邪魔する全ての者を排除する事である。
元より、エリウス神殿内は「護られて」いるのだが…それを信用しきるには、彼は歴史を知りすぎていた。
リーナもネティア神官独特の戦闘術の心得が無いわけではないのだが、儀式中は完全に無防備となる。
ゆえに−全ての存在を知覚せん、と発せられる彼の気配は、星空に溶けて小宇宙の様に満ちていた。
「…リーナ様」
背後に階段を下りる足音を聞き、男は組んでいた腕を解いて身体ごと向き直った。
見れば、星詠の神官としての正装に身を包んだリーナが、やや覚束無い足取りで階段を降りてくる所だった。
「…ロウ、毎回すみません」
「これが私の役目ですから」
手を差し伸べるロウに、大丈夫ですと応じて階段を降りきると、リーナは軽く疲労の息をついた。
どうでしたか、成功しましたか、といった類の事はロウはいつもはリーナに尋ねない。
その多くはロウには関わりのない事であり、彼が聞いても詮無い内容のものだからである。
…星々の運行、位置、輝きなどから近い将来の吉凶を占う―
『星詠み』について誰かに聞かれれば、リーナはさしあたりそう答えていた。
数ヶ月に一回、「星がざわついている」といった理由で、リーナは星詠台に上っていく。
だが、今回そういった事は何も言わず、『星詠み』を行った様子に、ロウは少しだけ違和感を感じていた。
「…星は、応えてくれましたか?」
と、彼が問うたのは、そのわずかな違和感に起因していたのだろう。
「…」
リーナは答えず、ただ何ともいえない表情でロウを見た。
眼前に数千の敵兵が群がっても臆せぬような男が、その外宇宙の様な藍色の瞳に一瞬恐怖し、戦慄した。
―私は正しかったのでしょうか、という口の動きが見えたが、視覚が脳に伝達したのは、その深い藍色の印象だけだった。
早朝のガウディ…鐘6つの頃、朝靄にかすむ南地区を一人の男が歩いていた。
男は乗合馬車組合の建物に近づくと、その扉を開いて中に足を踏み入れていく。
クーガ:「おはようごさいます」
(眠たげな眼をこすりながら早朝の乗合馬車組合を訪れる)
受付:「おはようございます」
(丁寧に一礼する)
クーガ:「以前、予約していたクーガ=アディールです。割符と書類、費用はこちらに」
(受付にトントンジャラリと必要なものを置き、馬車を借りる)
受付:「はい、承っております。では今、表に引き出しますのでしばらくお待ち下さい」
(それぞれの金品を確認すると、立ち上がって奥に引っ込んでいく)
しばらくすると、表で蹄と車輪の音が響き、受付が扉から姿を現した。
受付:「お待たせしました。ご確認下さい」
(扉を開いてクーガを外に案内し)
表には、屋根付きの客車を牽いた二頭立ての馬車が待機していた。
客車は最近の事情に対応したもので、各部補強され頑丈なものとなっている。
クーガ:「おぉ・・・馬の名前は?」
(出てきた馬車に思わず声を出しつつ、車輪周りや馬の様子などを点検、内装と外観観察)
内装は居住性が高く、長旅に適したものとなっている。
荷物は上に乗せるタイプで、柵と被せる防水製の覆いが既に積まれている。
外観は所々薄い鉄板が貼り付けられており頑丈そうで、枠組みもかっちりとしている。
馬は両方とも健康そのもので、黒馬は大人しそうで栗毛はテンションが高そうだ。
受付:「額に白い斑のある黒馬は『明け星』、栗毛の方は『デストロイヤー 世』です」
(それぞれを手で指し示しながら説明)
クーガ:「んじゃ、借りていきます」
(馬車に乗り込み、手綱を握り記憶亭を目指す。)
受付:「はい、お気をつけて。良い旅を」
(丁寧に一礼して見送る)
天聖暦1048年 緑薫の月 冒険者の酒場『記憶亭』
一方、待ち合わせの場所である『記憶亭』には、参加予定の冒険者達が集まりつつあった。
アーキス「・・・・・・うぃっす・・・・・」
(荷物を手に、記憶亭に顔を出す)
アウゴ:「...眠ぃ...」
(ぼりぼりと頭をかきながら、馬車の到着を待っている)
やがて鐘7つとなる頃、記憶亭の外から馬車の音(と歌声)が近づいてきた。
クーガ:「今日は朝から夜だった どんより曇った青空で 昔々のついさっき
生まれたばかりの爺さんが 100歳前後の孫連れて 黒い白馬に跨がられ 前へ前へとバックした」
(手綱を握りながら鐘7つなる頃に一人寂しく言葉遊びを思い出しながらカッポラカッポラ記憶亭へ、
つくなり邪魔にならないように端に止めて。車止めを付けて記憶亭の前へ)
マリア:「ん、馬車到着…かな?」
(街道側に顔を出して確認すると、伸びをしながら記憶亭から出てくる)
一行が表に出ると、二頭立ての馬車と、クーガがそこで待っていた。
クーガ:「おはよう諸君、本日仲間になったの明け星君とデストロイヤー 世君だ、皆の衆仲良くするように」
(記憶亭に着くなり、待っているはずの仲間たちに馬2頭紹介)
フィア:「・・・おはようございます。
朝からお疲れさまです。この馬車ですね・・・」
(静かに微笑み、馬に歩み寄って手を触れてしばらく撫でている)
アウゴ:「点検は?」
(クーガに問いかけつつも、さっさと馬車の下にもぐりこみ、
車軸やら車輪やらに異状が無いか、調べ始める)
アウゴが調べ始めた頃、記憶亭の扉が開いて親父が姿を現した。
手にした台車には、樽や食料などの入った木箱が詰まれている。
クーガ:「おはよう、朝から悪いね…親父さん頼んでた物頼むよ…皆の衆は積み込んでくれ」
(親父さんにカウンター越しに頼んでいた水樽、酒樽、食料を受け取りつつメンバーで積み込み)
親父:「お早うございます。良い出発日和となりましたね」
(空を見上げて言うと、第二弾、第三弾の荷物を運んでくる)
やがて、アウゴは馬車を調べ終えた。十分整備されており、異常は見られない。
積み込むべき荷物が馬車周囲に置かれた頃、ラサが記憶亭に到着した。
遠目に見ても、それらがかなりの積載量であることが知れる。
ラサ:「寒い…つか、朝から積み込み…力仕事」
(やだなーと思いながら記憶亭へとやってくる)
荷物を確認した一行は、早速それらの積載作業を開始する。
マリア:「まず私の荷物ね。上に樽置いちゃダメだよー。」
(ぽいっ、と馬車の中に荷物を放り込み)
アウゴ:「よっこらせ...」
(自分の荷物を手始めに、積み込みを始める。良く見ると軽いものばかり選んでいる)
ラサ:「おはよ。早速積み込みを終わらせてしまおうか」
(腕をまくって荷物を馬車へと積み込んでいく)
マリア:「コレを積み込めば良いんだね。」
(ふむふむ、と頷いて積み込み始める。)
アーキス「・・・・とりあえず・・積み込みか・・・・・これがまた面倒だ・・・」
(たいぎそうに、保存食を積み込んでいく。決して樽を自分でどうこうしようとはしなかった)
フィア:「えっと・・・これがそうですか。
6人分って・・・思ったよりありますね。
これ、運べば良いですか?」
(自分の荷物を一旦御者台に置き、自分でも持てそうな水以外の荷物を運ぶのを手伝う)
樽などの洒落にならない程重いものは、前衛陣が縄などを使って工夫しながら何とか引き上げた。
…そうこうしている内に、全ての荷物の積載が完了する。
マリア:「よーっし、完了かな?」
(周りに積み残しが無いか確認)
全ての出発の準備が整い、あとは乗り込んで馬車を発進させるだけとなった。
それに先がけ、改めて一行は酒場内にて顔をあわせる。
フィア:「改めて、よろしくお願いします。」
(わずかに上気した頬に、隠しようのない喜びを滲ませて一同を見やる)
クーガ:「出る前に色々説明しとくか…移動中のスケジュールは………と、この通り。
夜営中の見張り班編成は、俺とフィア、アウゴとラサ、マリアとアーキスでペアを組み3交代
4時間を目途に交代してくれ、早番、中継ぎ、遅番は日ごとに後退していく。だいたい8時間ぐらい寝れるから」
(移動時の1日のスケジュールと、夜営時の見張り番を酒場にて説明。)
クーガ:「戦闘になった場合、俺とマリアが前衛。アーキスとフィアは後衛になる。ラサは前衛の二人を盾としつつ
ヒットアンドウェーでインターセプト…ようは、コソコソと隠れながら攻撃するわけだ。アウゴは後衛組の直衛しつつ
伏兵や、迂回する敵が居ないか?周囲を警戒してくれ。魔法の使用に関しては各自の判断に任せるが
なるべく温存しつつ行こう。まぁ、道中の基本陣形はこれで行く。遺跡に入ったらまた、変わるだろうから
その時、改めて説明するわ。お互いに声を掛け合って、冷静に対処すればこの面子ならそうそう遅れは取らんよ。」
(道中の遭遇に備えて戦闘時の陣形を説明)
クーガ:「先手を取れるなら先ほどの通りに…不意打ち等で後手に回った場合、同じ班の面子とツーマン・セルで行動を開始。
各班独自に対処しつつ合流して先ほどの陣形に持って行こう」
(2本指を両手に造りつつ…それをあわせて4本にするジェスチャー)
クーガの道中の説明が終わり、いよいよ出立の時となった。
クーガ:「忘れ物は無いな?なら行くか…んじゃ、1月後辺りに帰ってくるので」
(親父さんに挨拶しつつ、馬車へ乗りこむ)
親父:「いってらっしゃい。土産話を期待していますよ」
(穏やかに微笑み、見送る)
酒場を出た一行は、三々五々馬車に乗り込み始めた。
アーキス「・・・・・・・疲れた・・・・ガウディ出てからはとりあえず・・・野党も少なさそうだし休めるのかね・・・」
(肩で息をしつつも、馬車に乗り込む)
フィア:「・・・・いよいよ出発ですね。」
(馬車に乗り込み、適当な所に腰を下ろすと自分の荷物を改めて確認する)
クーガ:「まずはガウディを南門から出て、外周区を眺めつつ街道へ…その後は東進だな?」
(後ろにいるだろう仲間とルートを確認しつつ手綱を手繰る)
アウゴ:「んじゃ。出発」
(クーガの手になるシフト表に従い、馬車に乗り込む)
フィア:「・・・・・。」
(荷物の確認後、瞳を閉じる。)
ラサ:「しゅぱーつ。かな…私は早速寝させ…はい、寝ませんね」
(寝たいのになぁ、とか思いながら)
クーガの操る手綱に従って、二頭の馬はゆっくり街の石畳の上を走り始める。
やがて大通りに出た馬車は、開放された市門をくぐっていく。
クーガ:「♪新しい朝が来た〜希望の朝だ〜 車上から失礼します。見張りお疲れ様で〜す。」
(鼻歌交じりに門衛に挨拶をしつつ門をくぐり町の外へ出て街道を目指す)
外周区を抜け、街道を駆ける馬車は、春風薫る平原の向こうへと姿を消していった…